『素数たちの孤独』パオロ・ジョルダーノ 飯田亮介/訳 ★★
ハヤカワepi文庫 2020.11.8読了
ヨーロッパでは再びロックダウンが始まり、日本でも、ここ最近の感染者数の増加に不安が高まる新型コロナウィルスの蔓延。今年の初めに流行の兆しが見え始めてから、感染症に関する過去の小説がよく売れている。国内では小松右京さんの『復活の日』が良い例だ。私は、カミュ氏の『ペスト』、マンゾーニ氏の『いいなづけ』を読んだ。
過去の作品よりも、現在進行形で新型コロナを書いたエッセイ・ノンフィクションとしては、今は方方さんの『武漢日記』をよく書店で目にする。少し前までは、パオロ・ジョルダーノさんの『コロナの時代の僕ら』が爆発的に売れていた。そのパオロさんのデビュー作が、この小説『素数たちの孤独』である。刊行当時、イタリアで記録的なベストセラーとなり数多くの文学賞を受賞したようだ。
スキー学校に向かう少女アリーチェは、寒さと緊張からいつもスキー服の中でお漏らしをしてしまう。それが、ある時なんと大きい方を漏らしてしまうのだ。すごい始まり方だなぁ、、と始めの数頁を読んで驚いてしまった。ある意味物語に引き込まれる。これ一体どんな話なんだろう、と。
アリーチェはその失態を隠すがために大きな事故を負い、片足が不自由になってしまう。そしてもう1人、双子の妹が行方不明になっているマッティオ。彼はずば抜けた天才だが自傷癖があり他人と関わることが苦手だ。アリーチェとマッティオは自然と接点を持つようになり友情とも同志ともとれるような関係になる。2人を中心とした孤独を抱える者たちの哀しくも心打つストーリー。
各々の章は時系列に並んでいるのだが、数年間が抜け落ちて空白となっている。そして、出来事の中でも大事なシーンや心境は文章によって書かれていないものも多い。読者にある程度の想像力が必要で、かつ色々な読み方が出来る作品だ。
素数とは「1とその数自身でしか割れない数字」のこと。2人は世界にとってそんな存在なのではないか、とマッティオは気付く。孤独を抱えた登場人物たちがどのようにして生きるのか、希望を見出せるのか、先が気になりどんどん読み進められる。重苦しいテーマなのだが不思議と静謐で美しくもある。
そんなに期待していなかったのだけど、読んで本当に良かった。素晴らしい作品。いつまでも読み続けていたくなる、何より美しい小説。私が読書において大事にしている「読み心地の良さ」があり、好みにピタリと合う文体が読書時間を潤わせる。
まさにハヤカワepi文庫に収められるべき作品だ。なんとも味わい深く、それでいて気品がある。どうしてepi文庫には優れた作品が多いのだろう。コロナのせいでパオロさんを知ったことは皮肉だが、ガイブン(外国文学)を知るきっかけは、なかなかないよなぁ。たくさんの人に読んでもらいたい作品だ。