『モルグ街の殺人・黄金虫 ポー短編集Ⅱ ミステリ編』エドガー・アラン・ポー 巽孝之/訳
新潮文庫 2021.3.2読了
ポー氏の作品はかなり昔に何作かは絶対に読んだはずなのに、覚えていなかった。読んだということ、デュパンが出てきたことは頭にあったのに、こうも忘れてしまっているとは、人間の記憶とは本当にあてにならない。
新潮文庫で3冊刊行されているポー短編集のうちの「ミステリ編」である。あの有名な『モルグ街の殺人』が収録されている。新聞記事に、目撃者や証人のコメントが詳細に記載されていること、死体の残虐がそのまま表されていることに若干違和感を感じるが、これもまた200年前の作品故だろう。
この作品が世界で最初の探偵・推理作品とは、なんだか感慨深いものがある。これが元になり、ホームズ、ポアロ、そして金田一耕助、御手洗潔、中禅寺秋彦などが誕生するのだ。
デュパンが事件の真相を独自の推理で披露したとき、そういえばこんな結末だったなと読んだことをようやく思い出した。意外性を覚えていたのだ。しかしこの作品の白眉は、事件が始まる前の導入として「分析力」云々のくだりが書かれた部分だろう。あれはしびれる。
現代私たちが読んでいる探偵物は、身体を張ってよく動き回っているなと感じる。デュパンはほぼ頭の中で推理して解決している。知能的な企みがみてとれる。ポーが考えた探偵とはそういう存在だったのかもしれない。それが時を経て探偵像も様々になり、いつしか刑事さながらフットワークが良くなってきているようだ。
世界で一番古い小説が11世紀の源氏物語だとしたら、そこから800年ほどは推理もの探偵もの、いわゆるミステリが小説の分野として確立されていなかった。何事でも最初にそれを始め、浸透させた人はすごいと思う。ミステリを誕生させた功績は、とてもとても大きい。ミステリ好きを除いたら、世の中の読者人口は相当減るだろうし。