書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2019-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『不死鳥少年 アンディ・タケシの東京大空襲』 石田衣良 / これからは、戦争を知らない人が戦争を伝えていかなければならない

『不死鳥少年 アンディ・タケシの東京大空襲』 石田衣良 毎日新聞出版 2019.2.24読了 14歳の日系アメリカ人時田武と、一緒に住む家族達、そして親友との東京大空襲を含む3日間の出来事がタケシの目線で語られている。広島や長崎の空襲に比べると、東京の空襲…

『浮世の画家』 カズオ・イシグロ / 読んでいるだけで心地良い感覚

『浮世の画家』 カズオ・イシグロ 飛田茂雄/訳 ハヤカワepi文庫 2019.2.23読了 カズオ・イシグロさんの小説は4冊めである。文庫本の『浮世の画家』は表紙が変わったなと思ったら新版とのことで、冒頭に序文が掲載されていた。この小説を書いた当時の話や時…

『呪文』 星野智幸 / 今風の小説は今しか理解できないだろう

『呪文』 星野智幸 河出文庫 2019.2.20読了 今日も初読みの方の本。星野智幸さんの作品は、『俺俺』という小説が単行本で並んでいる時から興味を持っていた。タイトルからして、当時よくニュースになっていたオレオレ詐偽の話だなと思っていたのもあるが、表…

『死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』 ドニー・アイカー / 謎のままのほうが風化しない

『死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』 ドニー・アイカー 安原和見/訳 ★ 河出書房新社 2019.2.18読了 よく訪れる書店で、大学生かもう少し上くらいの男性2人がこの本を前にして話していた。「これ、面白いらしいよ」その男性は買…

『共喰い』 田中慎弥 / 血のつながりを考える

『共喰い』 田中慎弥 集英社文庫 2019.2.17読了 第146回芥川賞受賞作。当時の会見で話題をさらった田中慎弥さん。会見の印象が強すぎて目立ってしまい、確か同時受賞の円城塔さんに申し訳なかったと後で話していたような。なんとなく手にする機会を逃してい…

『ドン・キホーテ』 セルバンテス / 岩波書店を応援しています

『ドン・キホーテ』前篇(一)(二)(三)後篇(一)(二)(三) セルバンテス 牛島信明/訳 岩波文庫 2019.2.16読了 セルバンテスといえばドン・キホーテだが、ドン・キホーテといえば、青いペンギンがキャラクターの、激安の殿堂を思い浮かべる人が多いかもしれない…

『雪の練習生』 多和田葉子 / 外も寒い、読んでいても寒い

『雪の練習生』 多和田葉子 新潮文庫 2019.2.9読了 最後まで不思議な小説であった。まず、ホッキョクグマが主人公であることもそうだが、あたかも人間のように振舞っている。そして周りも何ともなしに対応する。クマの三世代が自伝で紡ぐ連作小説。大事なこ…

『考える葦』 平野啓一郎 / 人間は考えるために生きる

『考える葦』 平野啓一郎 キノブックス 2019.2.7読了 小説以外で平野さんの本を読むのは始めてである。平野さんの文章は読む度に圧巻で、これほどまでに文才があり、これほど豊富な語彙や表現力がある人が現代にいるのかと常々思っており、大好きな小説家の1…

『光のない海』 白石一文 / 作中の舞台を感じたい

『光のない海』 白石一文 集英社文庫 2019.2.6読了 白石さんは作中の舞台である地域を表現することがすこぶる上手だと思う。目に見える風景だけでなく、その地域ならではの料理であったり、そこに住む人達であったり。おそらく、小説を書く前に、自分でその…

『82年生まれ、キム・ジヨン』 チョ・ナムジュ / 女性が働きやすくなるように

『82年生まれ、キム・ジヨン』 チョ・ナムジュ 斎藤真理子/訳 筑摩書房 2019.2.4読了 韓国は女性が最も働きづらい国だったことを恥ずかしながら今知った。英国の『エコノミスト』誌が発表したところによると、韓国は、ガラスの天井(マイノリティや女性の…

『贖罪』 イアン・マキューアン / だれに、なにを償うのか

『贖罪』 イアン・マキューアン 小山太一/訳 ★ 新潮文庫 2019.2.3読了 しばらく気になっていたこの小説、じっくりと堪能できた。「贖罪」とは、自分の犯した罪や過失を償うこと、罪滅ぼし。この小説では、色々な意味での「贖罪」があった。これから読む人の…