書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2020-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『天上の葦』太田愛/戦争体験者の想いと報道の在り方を問う

『天上の葦(あし)』上下 太田愛 ★ 角川文庫 2020.2.27読了 太田愛さんの作品は『犯罪者』『幻夏』に次ぐ3作目だ。期待通りの作品だった。陳腐で使い回された表現だが、まさに極上のエンターテイメント!と言えるだろう。 渋谷のスクランブル交差点で、突如…

『極北』マーセル・セロー/生まれた世界に生きるしかない

『極北』マーセル・セロー 村上春樹/訳 中公文庫 2020.2.19読了 先日書店で目に留まった一冊。なんだか最近、寒い感じの本を選んでしまう。冬だからかなぁ。でも寒さを感じる本の中に熱いエネルギーを感じられる、そんな作品は素敵だ。 不思議な作品である…

『熱源』川越宗一/極寒の地に生きるための熱がこもる

『熱源』川越宗一 文藝春秋 2020.2.15読了 先月発表になったばかりで、どの書店にもうず高く積み上げられている第162回直木賞受賞作。発表後、芥川賞は受賞作品なしにするかという話にもなり難航したようだが、直木賞については満場一致で『熱源』だったとの…

『夜の歌』なかにし礼/過去の作品と重なる自伝小説

『夜の歌』上下 なかにし礼 講談社文庫 2020.2.11読了 なかにし礼さんの自伝的小説だ。26歳で入院した時にゴーストという存在に初めて出会い、過去と現在とを行き来するストーリーになっている。この作品は雑誌に掲載されたようだが、書き始めたのも、度重な…

『女王陛下のユリシーズ号』アリステア・マクリーン/自然界の猛威に立ち向かう男たち

『女王陛下のユリシーズ号』アリステア・マクリーン 村上博基/訳 ハヤカワ文庫 2020.2.9読了 海洋冒険小説として世界一有名な小説は、メルヴィルの『白鯨』だろう。読んだのは4〜5年前だろうか。世界の十大小説の一つだし読んでおくかという単純な動機だっ…

『昼の家、夜の家』オルガ・トカルチュク/豊かな観察眼で物事を見つめる

『昼の家、夜の家』オルガ・トカルチュク 小椋彩/訳 ★ 白水社EXLIBRIS 2020.2.7読了 去年はノーベル文学賞が2作品発表された。2018年度と2019年度分で、オルガ・トカルチュクさんは2018年度として受賞。2019年度受賞のペーター・ハントケさんの本はあまり惹…

『淳子のてっぺん』唯川恵/山屋にとって登山は生きること

『淳子のてっぺん』唯川恵 幻冬舎文庫 2020.2.2読了 女性で初めてエベレストに登頂した登山家、田部井淳子さんの生涯を元にした小説だ。私は登山といえる登山はしたことがない。小中学生の時に林間学校で山に登ったり、散策がてら高尾山や熊野古道を登った位…

『フィデル誕生 ポーラースター3』海堂尊/カストロ父子とピノ・サントスの物語

『フィデル誕生 ポーラースター3』海堂尊 文春文庫 2020.2.1読了 ここ1~2週間は頭の中が南米モードである。ポーラースターシリーズ第3巻。ゲバラの話が続くのかと思ったら、突然フィデルの話になった。フィデル・カストロの父アンヘル・カストロの生い立ち…