書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2020-05-01から1ヶ月間の記事一覧

『ずっとお城で暮らしてる』シャーリイ・ジャクスン/つきまとう不快感

『ずっとお城で暮らしてる』シャーリイ・ジャクスン 市田泉/訳 創元推理文庫 2020.5.30読了 シャーリイ・ジャクスンさんの本は実はまだ読んだことがなくて、中でもこの小説のことはずっと気になっていた。色々と書評にあがることも多いけど、何よりもこの表…

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ/無知を知ること

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ 新潮社 2020.5.28読了 このブログを見てくださっている本好きな方で、この本の存在を知らない人はいないだろう。去年のノンフィクション部門のタイトルをいくつも取り、未だ売れ続けている…

『絹と明察』三島由紀夫/ワンマン経営者と社員らの関係

『絹と明察』三島由紀夫 新潮文庫 2020.5.27読了 近江絹糸(おうみけんし)争議とは、昭和29年に実際に起こった大阪の絹糸紡績の労働人権争議である。近隣の高校卒業生を強制的に入社させて工場で働かせたり、結婚したら女性は退社、男性も転勤か退社、寮生…

『アメリカーナ』チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ/米国における人種格差

『アメリカーナ』上下 チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ くぼたのぞみ/訳 ★ 河出文庫 2020.5.24読了 ナイジェリアの女性作家さんの小説。単行本刊行時から気になっていたのだけれどいかんせん分厚過ぎて断念…。私は読みかけの本は出かける時は必ず持ち歩…

『春の嵐』ヘルマン・ヘッセ/自分の人生を振り返るとき

『春の嵐』ヘルマン・ヘッセ 高橋健二/訳 新潮文庫 2020.5.20読了 あまり日を置かず、またヘッセ氏の小説を読んだ。最近の私のお気に入りのヘルマン・ヘッセ本、先日書店で4冊まとめて買ったのだ。ほとんどが新潮文庫で手に入るからわかりやすくていい。 こ…

『蝶々殺人事件』横溝正史/探偵小説は作者と読者の知識競技

『蝶々殺人事件』横溝正史 角川文庫 2020.5.17読了 ここ最近、こてこての探偵物を欲していた。本当はシャーロック・ホームズシリーズの長編が読みたくて、評判の良い光文社文庫のを探しているがどうやら絶版なのか見つからない。では日本のにするかと思って…

『けものたちは故郷をめざす』安部公房/極限下で生きていく様はまるでケモノ

『けものたちは故郷をめざす』安部公房 岩波文庫 2020.5.15読了 安部公房さんの本は多分『砂の女』しか読んだことがないはず。それも20年ほど前だからほとんど覚えていない。この作品は元々絶版になっていたようだが、岩波文庫から復刻版として刊行された。…

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』フィリップ・K・ディック/人間とロボットの違いは何なのか

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』フィリップ・K・ディック 浅倉久志/訳 ハヤカワ文庫 2020.5.14読了 ハリソン・フォード主演映画『ブレードランナー』の原作で、SF小説の金字塔であるあまりにも有名すぎる本作、私はまだ未読だった。映画も観ていな…

『移植医たち』谷村志穂/臓器移植を考える

『移植医たち』谷村志穂 新潮文庫 2020.5.12読了 臓器移植をテーマにした医療小説だ。著者の谷村志穂さん、名前は知っていたが初読みである。医療系の小説自体久しぶりだが、医療といっても日本ではあまり馴染みのない「移植」を取り上げている。 アメリカで…

『デミアン』ヘルマン・ヘッセ/自我の追求

『デミアン』ヘルマン・ヘッセ 高橋健二/訳 ★ 新潮文庫 2020.5.10読了 はじめにヘッセ氏が語る「はしがき」がある。わずか3ページの文章なのだが、これがとても心に響く。はしがきに感動することなんて滅多にない。「すべての人間の生活は、自己自身への道…

『倦怠』アルベルト・モラヴィア/欲望の成れの果て

『倦怠』アルベルト・モラヴィア 河盛好蔵・脇功/訳 河出文庫 2020.5.9読了 初めて読むイタリアの作家だ。先日マンゾーニ氏の『いいなづけ』を読んだ時に、イタリア人作家の本はあまり読んだことがないと気付いたので、早速読もうと。確か小池真理子さんが…

『志村流』志村けん/コント以上に笑顔が好きかもしれない

『志村流』志村けん 三笠書房 王様文庫 2020.5.8読了 新型コロナウイルス感染が原因で3月29日に亡くなられた志村けんさん。このニュースを聞いた時は本当に驚いた。その時は残念な気持ちになっただけで、本当にじわじわと心に重くのしかかってきたのはしばら…

『アウターライズ』赤松利市/東北への強い想い

『アウターライズ』赤松利市 中央公論新社 2020.5.7読了 2か月ほど前に、赤松さんのデビュー作『藻屑蟹』を読みその筆致に圧倒されたので、新刊を思わず購入。どうやらこれも東日本大地震をテーマにした作品のようだ。赤松さん自らが原発の除染作業員の経験…

『いいなづけ 17世紀ミラーノの物語』アレッサンドロ・マンゾーニ/禍(わざわい)転じて福となす

『いいなづけ 17世紀ミラーノの物語』上中下 アレッサンドロ・マンゾーニ 平川祐弘/訳 河出文庫 2020.5.6読了 この小説はご存知だろうか。新型コロナウイルスが蔓延し始めた2月末、イタリア・ミラノのある校長先生が生徒たちへ手紙を送り、その中にこの小説…

『ガラスの街』ポール・オースター/ニューヨークをあてどもなく歩く

『ガラスの街』ポール・オースター 柴田元幸/訳 新潮文庫 2020.5.3読了 オースターさんのニューヨーク3部作のうち第1作目がこの『ガラスの街』である。主人公クインの家に、深夜に電話がかかってくる。「ポール・オースターさんですね?」クインはポールに…

『我らが少女A』髙村薫/SNSで作られる虚構

『我らが少女A』髙村薫 ★ 毎日新聞出版 2020.5.2読了 このタイトルを見て「わーたーしー、少女A」と中森明菜さんが歌う場面を思い出しながら口ずさむ人は、私だけではないだろう。「私が」ではなく「我らが」というのがどういう意味なのか気になりながら読み…