書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2020-06-01から1ヶ月間の記事一覧

『MONKEY vol.20』柴田元幸責任編集/センスの良さが光る文芸誌

『MONKEY vol.20』柴田元幸責任編集 スイッチ・パブリッシング 2020.6.23読了 雑誌である。タイトルがMONKEYだが、別に猿に特化した読み物というわけではなく、柴田元幸さんが責任編集を務める文芸誌だ。「いい文学とは何か、人の心に残る言葉とは何か、その…

『サロメ』原田マハ/破滅するほどの愛が美麗で狂気な絵に

『サロメ』原田マハ 文春文庫 2020.6.21読了 聖書の一場面を独自にアレンジした『サロメ』は、オスカー・ワイルド氏による戯曲である。本当は、先に読むなり知識を深めてからこの小説を読むべきだったかなと思う。しかし、プロローグにて詳細に概要が語られ…

『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え』ジェスミン・ウォード/弱さをひた隠し強がる

『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え』ジェスミン・ウォード 石川由美子/訳 作品社 2020.6.18読了 いや、この小説のタイトルやばいですよね。カッコよすぎ!英語の原文だとどんなニュアンスなのかはわからないけど、日本語訳のこの表現は素晴らしい。この作品は…

『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』門田隆将/あの時何が起きていたかを知る。そして真実を残す。

『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』門田隆将 角川文庫 2020.6.16読了 新型コロナウィルス感染予防対策で映画館も閉館され、当初の公開時期延期を余儀なくされた映画『フクシマフィフティ』。3月頃は映画の番宣で、佐藤浩市さんと渡辺謙さんのお姿を…

『青春は美わし』ヘルマン・ヘッセ/野田あいさんのイラストもうるわし

『青春は美わし(うるわし)』ヘルマン・ヘッセ 高橋健二/訳 新潮文庫 2020.6.14読了 再びヘッセ氏の小説を読んだ。表題作『青春は美わし』と『ラテン語学校生』という二編の短編が収められている。どちらも、若く瑞々しい青春の香り漂う作品である。 「う…

『かわいそうだね?』綿矢りさ/言葉の持つ意味も絶えず変化する

『かわいそうだね?』綿矢りさ 文春文庫 2020.6.13読了 のっけから引き込まれる。主人公の樹理恵(じゅりえ)が大震災を妄想しシュミレーションをしているのだけど、普段自分が思っていることとよく似ている。あ、綿矢さんってやっぱり一般女性の普通の感覚…

『サンセット・パーク』ポール・オースター/過去に決着をつけていく群像劇

『サンセット・パーク』ポール・オースター 柴田元幸/訳 新潮社 2020.6.11読了 ニューヨーク・ブルックリンにあるサンセット・パーク(実在する地名らしい)のある廃屋に、4人の男女が不法滞在する。今までのオースターさんの小説と何か違うなと思っていた…

『荒野の呼び声』ジャック・ロンドン/野性にもどる

『荒野の呼び声』ジャック・ロンドン 海保眞夫/訳 岩波文庫 2020.6.9読了 ハリソン・フォードさん主演で映画化された『野性の呼び声』の原作である。ジャック・ロンドン氏といえば動物を題材にした本を書く人、というイメージだ。彼の作品を読むのは初めて…

『あちらにいる鬼』井上荒野/憎しみも独占もなく

『あちらにいる鬼』井上荒野 ★ 朝日新聞出版 2020.6.8読了 読みたかった本。期待して読んで、本当に思い通りに満足できた一冊だった。しとしとと雨の降る午後に、雨音だけが響く中、静かに読み浸っていたいような作品だ。この小説は刊行当時から話題になって…

『緋色の研究』アーサー・コナン・ドイル/ホームズとワトスンの出会い

『緋色の研究』アーサー・コナン・ドイル 日暮雅通/訳 光文社文庫 2020.6.7読了 探していた光文社文庫の新訳シャーロック・ホームズ、つい先日たまたま書店で見つけた。ネットで買えなくても、リアル書店で見つかることはよくある。この『緋色の研究』を選…

『猫を棄てる 父親について語るとき』村上春樹/誰もが平凡な1人の人間である

『猫を棄てる 父親について語るとき』村上春樹 絵・高妍 文藝春秋 2020.6.5読了 村上春樹さんの小説やエッセイには、家族のことはほとんど書かれていない。敢えて登場する人と言えば、奥さまだろう。「妻と美味しいワインと料理をたしなむ」なんていうシーン…

『あなたの人生の物語』テッド・チャン/粒揃いのSF短編集

『あなたの人生の物語』テッド・チャン 浅倉久志・他/訳 ハヤカワ文庫 2020.6.4読了 バラク・オバマ氏が2019年に読んだ本の中で絶賛している『息吹』という短編集が去年末から日本でもベストセラーとなっている。買おうか迷って、でも初めて読む作家だし、…

『悲嘆の門』宮部みゆき/言葉の持つ力

『悲嘆の門』上中下 宮部みゆき 新潮文庫 2020.6.2読了 大学の先輩に誘われ、サイバー・パトロール会社でアルバイトをすることになった大学生の三島孝太郎。ネット社会の闇を調べるうちに、世間を賑わしている連続殺人事件だけでなく身の回りにも事件が起こ…