書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2021-04-01から1ヶ月間の記事一覧

『破戒』島崎藤村|隠し続けるか苦悩する

『破戒』島崎藤村 新潮文庫 2021.4.29読了 先日読んだ『約束の地』のまえがきでバラク・オバマさんが述べていたように、私も巻末の注釈が大嫌いである。振ってある小さな数字も煩わしいし、後ろの頁をめくり該当の単語を探すもの煩わしい。何よりも本文から…

『生ける屍の死』山口雅也|エンバーミング|ホラーコメディ

『生ける屍の死』上下 山口雅也 光文社文庫 2021.4.26読了 この作品は、1989年に刊行された山口雅也さんのデビュー作である。同年のこのミス(宝島社 このミステリーがすごい!)第8位、2018年に30年間の作品の中から選ぶこのミスで、キングオブキングス第1…

『約束の地 大統領回顧録 Ⅰ 』バラク・オバマ|選挙戦と第1期めの任期|隠れた英雄を讃えよう

『約束の地 大統領回顧録 Ⅰ 』上下 バラク・オバマ 山田文 三宅康雄・他/訳 ★ 集英社 2021.4.24読了 発売されてすぐに購入していたのが、なんだか読むのが勿体ないような、心を落ち着けてこれに挑む準備をしてからにしよう、など思っているうちに2ヶ月くら…

『茄子の輝き』滝口悠生|記憶の回想と日々の移ろい

『茄子の輝き』滝口悠生 新潮社 2021.4.15読了 滝口悠生さんは、『死んでいない者』で2016年に第154回芥川賞を受賞された。受賞作は文庫になっているがまだ未読である。この『茄子の輝き』というタイトルに何故だか惹かれた。食材の中では主役級ではない茄子…

『奥のほそ道』リチャード・フラナガン|戦争の英雄と言われても

『奥のほそ道』リチャード・フラナガン 渡辺佐智江/訳 白水社 2021.4.13読了 私は旅行でタイに2回訪れたことがある。2回めに行った時、バンコクの郊外・カンチャナブリのオプショナルツアーに参加した。このツアーは、映画『戦場に架ける橋』の舞台となった…

『デイジー・ミラー』ヘンリー・ジェイムズ|恋愛に対するアメリカ的な価値観

『デイジー・ミラー』ヘンリー・ジェイムズ 小川高義/訳 新潮文庫 2021.4.10読了 ヘンリー・ジェイムズ氏の『デイジー・ミラー』が新潮文庫から新訳で刊行された。初めて『ねじの回転』を読んだときに、ジェイムズさんの紡ぐ物語世界に引き込まれた。ホラー…

『彼女は頭が悪いから』姫野カオルコ|東大生ならではの弱み

『彼女は頭が悪いから』姫野カオルコ 文春文庫 2021.4.8読了 このタイトルとジャケットだけ見ると、ファンタジー作品だろうかと勘違いしてしまう。単行本が刊行されたときにはあまり気にも留めていなかった。しかし読んでみると、2016年に起きた「東大生集団…

『いつか王子駅で』堀江敏幸|疾走するのに和む堀江さんマジック

『いつか王子駅で』堀江敏幸 新潮文庫 2021.4.6読了 まるで谷崎潤一郎さんの『春琴抄』のように、一文がひたすら長い。私が今まで読んだ堀江さんの2作に比べても圧倒的な長さである。それでも、独特の言い回しとリズムのある文体が心地良く、いつしか読みや…

『父を撃った12の銃弾』ハンナ・ティンティ|じっくり読みたい父子の物語

『父を撃った12の銃弾』ハンナ・ティンティ 松本剛史/訳 ★ 文藝春秋 2021.4.4読了 物語に引き込まれるシーンが、最初の章の終わりにある。12の銃弾痕が身体に残るルーの父親ホーリーは上半身裸になる。陽の光を浴びて踊る姿が、スローモーションとなり鮮や…

『ふたりぐらし』桜木紫乃|他人と生活を共にする

『ふたりぐらし』桜木紫乃 新潮文庫 2021.3.31読了 書店の文庫本新刊コーナーに並んでいるのを見てつい買ってしまった。桜木紫乃さんといえば、去年刊行された『家族じまい』がそういえば気になっていたのだった。最近は家族をテーマにした作品を書くことが…