書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2021-08-01から1ヶ月間の記事一覧

『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』桜木紫乃|程よい距離感がちょうどいい

『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』桜木紫乃 角川書店 2021.8.29読了 タイトルが表している通り、「俺」を含めた4人が登場する小説である。桜木紫乃さんの作品は、ストーリーがしっかりしていて、いつどんな時でも(忙しくても時間がなくても多少疲れ…

『ロデリック・ハドソン』ヘンリー・ジェイムズ|芸術の街ローマで溺れる

『ロデリック・ハドソン』ヘンリー・ジェイムズ 行方昭夫/訳 講談社文芸文庫 2021.8.28読了 この作品の存在は知らなかった。ヘンリー・ジェイムズさん最初の長編小説ということで、60年ぶりに新訳になったそうだ。恋愛小説のカテゴリになるのだと思うが、芸…

『複眼人』呉明益|地球規模のファンタジー

『複眼人』呉明益(ご・めいえき) 小栗山智/訳 KADOKAWA 2021.8.23読了 東京オリンピック2020で新しく「サーフィン」が競技登録された。まだ記憶に新しいと思うが、男子サーフィンで見事銀メダルを獲得した五十嵐カノアさんが、競技終了後に海に向かってひ…

『めぐらし屋』堀江敏幸|蕗子ではなくて蕗子さん

『めぐらし屋』堀江敏幸 新潮文庫 2021.8.20読了 めぐらし屋ってなんだろう。想像をめぐらせる夢想家なのか、屋とついているから何かのお店なのか。タイトルから小説の中身を思いめぐらせること、これもなかなか楽しい。 父親を亡くした蕗子(ふきこ)さんは…

『ある子馬裁判の記』ジェイムズ・オールドリッジ|みんなで議論をしよう|古い印刷技術のこと

『ある子馬裁判の記』ジェイムズ・オールドリッジ 中村妙子/訳 評論社 2021.8.18読了 ★ これは評論社の児童図書館シリーズに入っている子供向けの本である。どうしてこの本を読んだかというと、先日訪れた池袋の梟書茶房「ふくろう文庫」で自ら選んだものな…

『狐狼の血』柚月裕子|ガミさんの男意気と生き方

『狐狼の血』柚月裕子 角川文庫 2021.8.15読了 女性なのに、よくこんなヤクザ&警察もの書けるよなぁと尊敬する。警察ものはわかるけど、暴力団の話って言葉も特殊で難しいと思う。取材するわけにもいかないし。広島弁も巧みで、特にガミさん(呉原東署暴力団…

『最高の任務』乗代雄介|モノを書くために生まれてきた光る存在

『最高の任務』乗代雄介 ☆ 講談社 2021.8.13読了 芥川賞候補に2回も選ばれていて、最新作『旅する練習』が気になっている。というより、多くの方から絶賛されている乗代雄介さんの小説をなんでもいいから読みたい欲が高まっていた。この『最高の任務』には、…

『黒い雨』井伏鱒二|被爆してもなお日常を生きる

『黒い雨』井伏鱒二 新潮文庫 2021.8.12読了 井伏鱒二さんの『山椒魚』は高校の現代文の教科書に載っていると言われているが、私は学んだ記憶がない。教科書の種類が違ったのか、時代が違ったのか。そもそも小中学校とは違って、高校では先生の好みで教科書…

梟書茶房|インスピレーションで選書する

東京・池袋にある梟書茶房(ふくろうしょさぼう)へ行った。ドトールが運営している「本と珈琲」のためのお店。時はコロナ禍、そして緊急事態宣言下。県を跨いだ移動とはなるけれど、乗り換えなしの電車1本で行け、1人でカフェに行くだけなら問題なしと判断…

『死んでいない者』滝口悠生|日常とは違うある一日の営み

『死んでいない者』滝口悠生 文春文庫 2021.8.10読了 滝口悠生さんの芥川賞受賞作である。少し前に『茄子の輝き』を読んで、なかなか好みの文体だったため手に取ってみた。お通夜、告別式の話なので先日読んだ『葬儀の日』を連想した。 honzaru.hatenablog.c…

『夜はやさし』フィツジェラルド|大人のための小説

『夜はやさし』上下 フィツジェラルド 谷口陸男/訳 角川文庫 2021.8.9読了 フィツジェラルドさんの代表作は、言わずもがなで『グレート・ギャツビー』である。昔読んだ時にはあまりピンとこなかったのだが、最近再読したらとてもおもしろく読めた。次に有名…

『兄弟』余華|中国の圧倒的な熱量と勢いを感じる傑作

『兄弟』余華(ユイ・ホア) 泉京鹿/訳 ★ アストラハウス 2021.8.8読了 公衆便所で女の尻を覗き捕まってしまう、という衝撃的な場面から物語が始まる。数ページ読んで「あぁ、これぞ中国だなぁ」と思った。コロナが始まる前だから2年前の初夏に北京を旅行で…

『ドルジェル伯の舞踏会』ラディゲ|読み終えて余韻をしみじみと

『ドルジェル伯の舞踏会』レーモン・ラディゲ 渋谷豊/訳 光文社古典新訳文庫 2021.8.2読了 人はどんなふうにして自分が誰かを愛していると気付くのだろう。フランソワの内に愛が宿った瞬間の描写を読んだときにふと思った。そしてドルジェル伯夫人・マオの…

『戦いすんで日が暮れて』佐藤愛子|苦難を乗り切ったからこそ

『戦いすんで日が暮れて』佐藤愛子 講談社文庫 2021.7.31読了 おんとし97歳の佐藤愛子さんは、とても美しく気品に溢れている。もちろん外見が若々しいのもそうだが、内面から湧き上がるこの美しさは、彼女自らが強く気高く生き抜いてきた賜物だと言える。 過…