書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2022-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『象の旅』ジョゼ・サラマーゴ|人生は喝采と忘却

『象の旅』ジョゼ・サラマーゴ 木下眞穂/訳 ★ 書肆侃侃房 2022.2.25読了 ノーベル賞作家であるポルトガル人ジョゼ・サラマーゴさんのことはずっと気になっていて、まずは『白の闇』から読むべきかと思っていたのだが、この装丁に惹かれて思わず購入してしま…

『道頓堀川』宮本輝|薔薇と河豚に想いを馳せながら

『道頓堀川』宮本輝 新潮社[新潮文庫] 2022.2.23読了 宮本輝さんの川三部作、最後の『道頓堀川』を読み終えた。続けて読むのはどうも飽きっぽくてかなり間が空いてしまったが、読んでようやくすっきりした。「あれ読まなきゃな」みたいな感情が頭の片隅に…

『フランス組曲』イレーヌ・ネミロフスキー|未完の大作と呼ばれる作品は感想が難しい

『フランス組曲』イレーヌ・ネミロフスキー 野崎歓・平岡敦/訳 白水社 2022.2.22読了 この小説は、著者のイレーヌ・ネミロフスキーさん死後、長女が預かっていたトランクの中から見つかったもので2004年に出版された。死後60年近く経ってからである。発売さ…

『幻の女』ウイリアム・アイリッシュ|ストーリーも文体も完璧な名作

『幻の女』ウイリアム・アイリッシュ 黒原敏行/訳 ★ 早川書房 [ハヤカワミステリ文庫] 2022.2.19読了 ミステリなのにミステリファン以外からも根強く人気があり名作と名高い。おそらく、文章の美しさが読者を虜にする理由であろう。絶賛されている冒頭の…

『ディス・イズ・ザ・デイ』津村記久子|スポーツ観戦することで自己をみつめる

『ディス・イズ・ザ・デイ』津村記久子 朝日新聞出版[朝日文庫] 2022.2.18読了 私はサッカーよりも野球のほうが好きだ。普段Jリーグも海外リーグも高校サッカーの試合も観ない。ワールドカップだけは、テレビに張り付いて観るという「にわか」だ。ラグビ…

『マイケル・K』J.M.クッツェー|カボチャを愛おしく食べ、自然を自由に生きる

『マイケル・K』J.M.クッツェー くぼたのぞみ/訳 岩波文庫 2022.2.16読了 タイトルの『マイケル・K』というのは、主人公の名前である。姓をKと略して表現しているのがなんともおもしろい。障害を持つ彼が辿った運命がただひたすらに書き連ねられた物語だ。…

『Schoolgirl』九段理江|動画配信を文学で表現するという斬新さ

『Schoolgirl(スクールガール)』九段理江 文藝春秋 2022.2.15読了 先月発表された第166回芥川賞受賞作品は、砂川文次さんの『ブラックボックス』である。それを読む前に、候補作の一つだった『Schoolgirl』を先に読み終えた。書店で最初の段落を読んでみて…

『太陽の季節』石原慎太郎|回想の使い方が絶妙

『太陽の季節』石原慎太郎 新潮文庫 2022.2.14読了 今月の初め、石原慎太郎さんご逝去のニュースが日本中を駆け巡った。昭和・平成を代表する偉人がまた1人、この世を去った。私のなかで石原慎太郎さんは政治家、ことに東京都知事の印象しかない。作家である…

『火刑法廷』ジョン・ディクスン・カー|導入部が素晴らしく引き込まれる

『火刑法廷』ジョン・ディクスン・カー 加賀山卓朗/訳 ハヤカワ文庫 2022.2.13読了 火刑法廷とは、17世紀のフランスで行われた裁判の一種で、魔女、毒殺者と目された人物を火刑にするために開かれた。被告は拷問に付され、死体は火で焼かれたとされる(Wiki…

『活きる』余華|どんな苦難があっても生き続ける

『活きる』余華 飯塚容/訳 中公文庫 2022.2.12読了 現代中国を代表する作家・余華(ユイ・ホア/ヨ・カ)さんのベストセラー小説『活きる』を読んだ。本国では1千万部超えというすさまじい作品だ。映画化もされ大ヒットした。映画を撮ったのは、今行われて…

『愛なき世界』三浦しをん|研究者の生き方|本の並べ方

『愛なき世界』上下 三浦しをん 中公文庫 2022.2.10読了 自分に全く縁のない世界をまざまざと見せられると、気になってしまうもの。料理のことしか頭にない藤丸にとっての大学の研究室、それも畑違いの植物という分野がそうだった。でもきっと縁のない世界な…

『緑の天幕』リュドミラ・ウリツカヤ|重層的な連なりが感動を呼び起こす

『緑の天幕』リュドミラ・ウリツカヤ 前田和泉/訳 ★ 新潮クレスト・ブックス 2022.2.8読了 アメリカやイギリスの現代作家はよく読むけれど、ロシア現代作家の作品はあまり読むことがない。ロシアといえばドストエフスキー、トルストイなどの文豪が多く、そ…

『ボダ子』赤松利市|こすい人間、でも気になる。これ、なんなん!

『ボダ子』赤松利市 新潮文庫 2022.2.3読了 ボーダーとは境界性人格障害と呼ばれる深刻な精神障害で、それは成長とともに軽快する障害だが、その一方で、成人までの自殺率が十パーセントを超えるという。(7頁) その、ボーダーだから『ボダ子』である。作品…

『片隅の人生』サマセット・モーム|人生も船旅のように

『片隅の人生』サマセット・モーム 天野隆司/訳 ちくま文庫 2022.2.1読了 モームさんの作品の中ではあまりメジャーではない『片隅の人生』を読んだ。中国福州で医師を務めるサンダースは、ある患者の白内障手術をするためにマレー諸島南端に長期出張をする…

『アンソーシャル ディスタンス』金原ひとみ|現代を生きる女性たちの依存

『アンソーシャル ディスタンス』金原ひとみ 新潮社 2022.1.31読了 金原ひとみさんのお父様は、尊敬する翻訳家金原瑞人さんだ。私としては圧倒的に瑞人さんにお世話になっている。金原ひとみさんの小説は、芥川賞受賞作の『蛇にピアス』を読み、数年前に『マ…

『まほり』高田大介|伝承から研究し解決へ

『まほり』上下 高田大介 角川文庫 2022.1.30読了 初めて読む作家の本である。名前も知らなかったのだが、どなたかがこの本をTwitterにあげていて気になり購入。どうやら民俗学をテーマにした作品のようだ。著者の高田大介さんは、小説を書く傍ら、対象言語…