書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2022-06-01から1ヶ月間の記事一覧

『ポラリスが降り注ぐ夜』李琴峰|台湾の方が美しい日本語で小説を書く

『ポラリスが降り注ぐ夜』李琴峰(り・ことみ) 筑摩書房[ちくま文庫] 2022.6.25読了 台湾出身の李琴峰さんは、昨年『彼岸花が咲く島』で芥川賞を受賞された。同時受賞の石沢麻依子さんの『貝に続く場所にて』がとても良かったから李さんの作品を読むこと…

『嘘の木』フランシス・ハーディング|純真無垢な心でファンタジーを読む

『嘘の木』フランシス・ハーディング 児玉敦子/訳 東京創元社[創元推理文庫] 2022.6.22読了 フランシス・ハーディングさんの小説は前から気になっていた。児童文学のようだからちょっと手を出しにくかったのだが、この本が文庫になっていたのでようやく読…

『いるいないみらい』窪美澄|いろいろな家族のかたち

『いるいないみらい』窪美澄 KADOKAWA[角川文庫] 2022.6.19読了 タイトルの「いる」「いない」とは、自分に子供が「いる」か「いない」かの未来のことである。つまり、赤ちゃんを産むか産まないか、産めるか産めないか、家族をつくるかつくらないか、そう…

『マーダーハウス』五十嵐貴久|青春小説風だけど殺人館

『マーダーハウス』五十嵐貴久 実業之日本社[実業之日本社文庫] 2022.6.18読了 五十嵐貴久さんといえば、ドラマ化もされた『リカ』が有名である。私はドラマも見ていなく小説も読んでいない。結構グロくてサイコパスを描いているというのは何となく知って…

『現代生活独習ノート』津村記久子|単独で学習する現代人

『現代生活独習ノート』津村記久子 講談社 2022.6.16読了 去年の11月に刊行された津村記久子さんの短編集を読んだ。過去に文芸誌に掲載された8つの作品が収められている。タイトルに「生活独習」とあるように、なんらかの物事を独りで学習するようなストーリ…

『長い別れ』レイモンド・チャンドラー|ギムレットと男の友情

『長い別れ』レイモンド・チャンドラー 田口俊樹/訳 ★ 東京創元社[創元推理文庫] 2022.6.15読了 去年村上春樹さん訳『ロング・グッドバイ』を読んだばかりなのに。過去に清水俊二さん訳『長いお別れ』も読んだことがあるから、この作品を読むのは訳者を変…

『いかれころ』三国美千子|人生なんてそんなもの

『いかれころ』三国美千子 新潮社[新潮文庫] 2022.6.12読了 三島由紀夫賞と新潮新人賞を同時受賞したということで、単行本刊行時からとても気になっていた作品である。三国美千子さんの文章を読んでみたいと思っていたら今年になりこの作品が文庫化されて…

『チェスナットマン』セーアン・スヴァイストロプ|息もつかせぬ展開、これはドラマのほうが良さそう

『チェスナットマン』セーアン・スヴァイストロプ 髙橋恭美子/訳 ハーパーコリンズ・ジャパン[ハーパーbooks] 2022.6.11読了 見慣れないタイトルの『チェスナットマン』という単語は「栗人形」のこと。そもそも栗人形というのが日本では馴染みがないけど…

『高架線』滝口悠生|おもしろい賃貸物件と語りの美学を堪能

『高架線』滝口悠生 ★ 講談社[講談社文庫] 2022.6.7読了 次の入居者を自分で見つけることが賃貸に住む条件というのはなかなかおもろい。不動産屋を通さずに済むから、貸主も借主も余計な手数料がかからず、その分家賃が破格なのだ。まぁ、契約書やら重要事…

『ビブリア古書堂の事件手帖〜栞子さんと奇妙な客人たち〜』三上延|実在の本にまつわる柔らかな謎解き

『ビブリア古書堂の事件手帖〜栞子さんと奇妙な客人たち〜』三上延 KADOKAWA[メディアワークス文庫] 2022.6.4読了 先日三上延さんの『同潤会代官山アパートメント』を読んだ。その時に気軽に読めるものを欲していたせいか、柔らかな文体に気分をほぐされ、…

『シャギー・ベイン』ダグラス・スチュアート|辛く苦しいのに美しい物語

『シャギー・ベイン』ダグラス・スチュアート 黒原敏行/訳 早川書房 2022.6.2読了 タイトルのシャギー・ベインとは主人公の男の子の名前である。スコットランドのグラスゴーを舞台とした、シャギーが5歳から16歳になるまでを母親アグネスとの関係を中心に描…