書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2022-09-01から1ヶ月間の記事一覧

『エリザベス女王の事件簿 ウィンザー城の殺人』S・J・ベネット|愛すべき国民の母が名探偵

『エリザベス女王の事件簿 S・J・ベネット 芹澤恵/訳 ★ KADOKAWA[角川文庫] 2022.9.25読了 世界で1番キュートで、おしゃれで、慎ましくかつ知的な女性はエリザベス女王で間違いないと思う。つやつやの肌、キラキラした目、全身から光り輝く姿。英国王室…

『すべて忘れてしまうから』燃え殻|くすぐったい懐かしさとほっこりする優しさ

『すべて忘れてしまうから』燃え殻 新潮社[新潮文庫] 2022.9.23読了 燃え殻さんの小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、大人泣き必須ということで話題になり映像化もされた。著者の燃え殻さんは、映像美術の仕事をしながら執筆をしている。現代…

『人生と運命』ワシーリー・グロスマン|自分の人生を切り開くのは自分の歩みによる

『人生と運命』123 ワシーリー・グロスマン 齋藤紘一/訳 みすず書房 2022.9.22読了 現代ロシア文学の傑作として名高い大作『人生と運命』を読み終えた。全三部作でとても長かったが、タイトルから想像できるように重厚で濃密な読書時間を堪能できた。小…

『独り舞』李琴峰|台湾人から日本語を教わる

『独り舞』李琴峰 光文社[光文社文庫] 2022.9.16読了 以前読んだ李琴峰さんの『ポラリスが降り注ぐ夜』がとても良かったので、デビュー作で群像新人文学賞を受賞されているこの作品を読んだ。テーマは『ポラリス〜』と似ており、性的マイノリティに悩む若…

『ゼロ時間へ』アガサ・クリスティー|全てが集約される

『ゼロ時間へ』アガサ・クリスティー 三川基好/訳 早川書房[クリスティー文庫] 2022.9.15読了 タイトルにある「ゼロ時間」とは、刻一刻と迫る何かのタイムリミットなのか?いや、ここではクライマックスの最後の瞬間のことである。全てが集約されるゼロ時…

『君がいないと小説は書けない』白石一文|自己分析を突き止めた到達点がある

『君がいないと小説は書けない』白石一文 新潮社[新潮文庫] 2022.9.13読了 敬愛する作家の一人、白石一文さんの自伝的小説を読んだ。単行本刊行時から気になっていたが、確かあの時はほぼ同時に刊行された島田雅彦さんの作品(これも自伝的小説)を手に取…

『だれも死なない日』ジョゼ・サラマーゴ|死がなくなることの恐ろしさと混乱

『だれも死なない日』ジョゼ・サラマーゴ 雨沢泰/訳 河出書房新社 2022.9.10読了 死はどうして恐ろしいのか。『火の鳥』(手塚治虫著)で永遠の命を欲しいと願っていた人たちは、何故死を恐れ、何のために永遠に生き続けたい(死にたくない)と思っていたの…

『むらさきのスカートの女』今村夏子|他人に執着する

『むらさきのスカートの女』今村夏子 朝日新聞出版[朝日文庫] 2022.9.7読了 今村夏子さんが第161回芥川賞を受賞した作品である。単行本の時から表紙のイラストは同じだが、これなら「水玉のスカートの女」じゃないのかなぁと思っていた。 知り合いでもなん…

『月の三相』石沢麻依|面の裏側にあるもの|装幀が素晴らしい

『月の三相』石沢麻依 講談社 2022.9.6読了 芥川賞受賞作『貝に続く場所にて』がとても良かったので、受賞後第一作目となる『月の三相』を読んだ。 旧東ドイツの南マインケロートという街がこの作品の舞台となっている。「面」に惹かれた女性たち、望(のぞ…

『スクイズ・プレー』ポール・ベンジャミン|もっとオースターさんの探偵ものが読みたくなる

『スクイズ・プレー』ポール・ベンジャミン 田口俊樹/訳 ★ 新潮社[新潮文庫] 2022.9.4読了 なんと、ポール・オースターさんが別名義で小説を書いていたなんて!Twitterでフォローしている方のツイート見て初めて知ったのだ。しかもこの作品はデビュー作に…

『ルコネサンス』有吉玉青|透明感と美しさが共存する父娘の物語

『ルコネサンス』有吉玉青 集英社 2022.9.3読了 著者の有吉玉青さんは有吉佐和子さんの娘である。お母さんの佐和子さんの作品は結構好きで何冊か読んでいるが、娘さんも小説を書いていたのは知らなかった。玉青と書いて「たまお」と読むこの名前がとても素敵…

『優等生は探偵に向かない』ホリー・ジャクソン|「ハイ!みんな!」ピップの爽快な挨拶とひたむきな信念

『優等生は探偵に向かない』ホリー・ジャクソン 服部京子/訳 ★ 東京創元社[創元推理文庫] 2022.9.1読了 お待ちかねの『自由研究には向かない殺人』の続編である。今年の初めに『自由研究〜』を読んでめちゃくちゃおもしろくて、次回作を楽しみにしていた…