書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2023-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『この世の喜びよ』井戸川射子|存在感ある文体|芥川賞のこと

『この世の喜びよ』井戸川射子 講談社 2023.1.24読了 去年井戸川射子さんの『ここはとても速い川』を読んでその文才に圧倒され、すぐに『この世の喜びよ』を購入していた。すでに芥川賞にノミネートされており、まだ未読であるのに芥川賞を受賞しそうだなと…

『fishy』金原ひとみ|お酒を飲み交わす関係はいい

『fishy』金原ひとみ 朝日新聞出版[朝日文庫] 2023.1.23読了 金原ひとみさんの作品はここ1〜2年で読むことが増えた。昔はそこまで惹かれなかったのに、40代の今読むととても突き刺さるものがある。確実に綿矢りささんの小説の方が好みだったのに、今は金原…

『ロリータ』ウラジーミル・ナボコフ|性愛小説ではないのよね|再読のすすめ

『ロリータ』ウラジーミル・ナボコフ 若島正/訳 新潮社[新潮文庫] 2023.1.22読了 なんとなく敬遠して読んでいない人は本当に勿体無いと思う。私はこの『ロリータ』を読むのは2回めだけれど、やはり傑作だと感じた。ドロレス・ヘイズ(愛称ロリータ)をそ…

『キルケ』マデリン・ミラー|神も人間も痛みは同じ

『キルケ』マデリン・ミラー 野沢佳織/訳 作品社 2023.1.19読了 ギリシャ神話は、ところどころのエピソードは聞いたことがあるけれど、ちゃんと読んだことはない。岩波文庫から『イリアス』や『オデュッセイア』が刊行されておりいつかは読みたいとは思うの…

『春』島崎藤村|青春時代、恋愛と友情と

『春』島崎藤村 新潮社[新潮文庫] 2023.1.18読了 島崎藤村著『破戒』を読んだのはいつだったかなと振り返ると、2年近く前だった。次は大作『夜明け前』を読もうと思っていたのに、さらっと一冊で読めるかと今回は『春』を選んだ。なんせ、まだコロナ明け(…

『ジュラシック・パーク』マイクル・クライトン|なぜこんなにも恐竜に魅了されるのか|withコロナ小説 

『ジュラシック・パーク』上下 マイクル・クライトン 酒井昭伸/訳 早川書房[ハヤカワ文庫] 2023.1.17読了 同名の映画を知らない人はいないだろう。私は確か中学生の時に映画館で観て、未知なる恐竜のうごめく姿とその映像技術の高さに圧倒されて、めちゃ…

『祝宴』温又柔|ほっこりと、あったかい気持ちになれる

『祝宴』温又柔(おん・ゆうじゅう) 新潮社 2023.1.10読了 小籠包のイラストが食欲をそそる!少し前から台湾の作品が熱いような気がする。台湾人作家の本や台湾自体を紹介する本も多く、リアル書店でもたまにフェアなんかやっていたりする。台湾人である温…

『真珠湾の冬』ジェイムズ・ケストレル|読みやすい歴史ロマン大作

『真珠湾の冬』ジェイムズ・ケストレル 山中朝晶/訳 早川書房[ハヤカワポケットミステリー] 2023.1.9読了 ポケミスは手にして読んでいるだけでもやっぱりワクワクする。でも文庫に比べて高価だから、よほど好きな作家以外はチェックしていない。この作品…

『私の家』青山七恵|自分にとっての家とは

『私の家』青山七恵 集英社[集英社文庫] 2023.1.7読了 身内のお葬式の場面から物語は始まる。普通の生活をしていると滅多に会わない間柄だとしても、こういった席では顔を合わせ意識をする。血の繋がりとは結構不思議なものだ。鏑木家の三代に渡る「家」に…

『彼岸の花嫁』ヤンシィー・チュウ|霊婚、または中国社会独自の文化や習わし

『彼岸の花嫁』ヤンシィー・チュウ 圷香織/訳 東京創元社[創元推理文庫] 2023.1.7読了 マレーシアにある街、マラッカが出てきた!マレーシアは7〜8年前に旅行で訪れて、都市と田舎が合体したような雰囲気と、安価で美味しい料理、多様な文化の融合、なん…

『ネイティヴ・サン アメリカの息子』リチャード・ライト|生きているという感覚、わかりあいたいという願い

『ネイティヴ・サン アメリカの息子』リチャード・ライト 上岡伸雄/訳 ★★★ 新潮社[新潮文庫] 2023.1.3読了 新年早々、とんでもない小説を読んでしまった。この作品は『アメリカの息子』というタイトルで早川文庫から刊行されていたが、絶版のため手に入れ…

2022年に読んだ本の中からおすすめ10作品を紹介する

(2022.06 村上春樹ライブラリーにて) 1年が経つのは本当に早い…。年々そう感じるのだけれど、ブログを始めてからはなおのことそう思う。毎日ではないけれど、読んだ本の感想やらあれこれを日記のように文章にして残していると、たまに振り返ったときに、こ…

『罪の壁』ウィンストン・グレアム|謎の人物を追い続ける|今年も素晴らしい読書ができますように

『罪の壁』ウィンストン・グレアム 三角和代/訳 新潮社[新潮文庫] 2022.12.30読了 新潮文庫で「海外の名作発掘シリーズ」なるものがあって、昨年12月に刊行されたのがこの作品。前に読んだポール・オースターがポール・ベンジャミン名義で刊行した『スク…