書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2023-04-01から1ヶ月間の記事一覧

『モーリス』E・M・フォースター|美しく儚い純真無垢な愛

『モーリス』E・M・フォースター 光文社[光文社古典新訳文庫] 2023.4.26読了 先月読んだ『インドへの道』が思いのほか好みだったので、フォースターの代表作のひとつである『モーリス』を読んだ。当時の英国では同性愛は禁じられていたため、執筆した当時…

『蝙蝠か燕か』西村賢太|没後弟子を極める

『蝙蝠か燕か』西村賢太 文藝春秋 2023.4.24読了 文芸誌に掲載された短編が3編収められた、西村賢太さん没後に刊行された作品集である。藤澤清造という作家のために生きる北町貫多の思想と行動が書かれた、西村さんお得意の私小説だ。 西村さんの作品は芥川…

『エリザベス女王の事件簿 バッキンガム宮殿の三匹の犬』S・J・ベネット|王室事情を丹念に読み込む

『エリザベス女王の事件簿 バッキンガム宮殿の三匹の犬』S・J・ベネット 芦沢恵/訳 ★ KADOKAWA[角川文庫] 2023.4.23読了 イギリス好きとしては、英国王室ものは外せない。しかもミステリーなんて。去年このシリーズの第一弾を読んでとてもおもしろかった…

『黄色い家』川上未映子|人間のなかのある部分、表現できないうやむやな感情

『黄色い家』川上未映子 ★★ 中央公論新社 2023.4.19読了 遅ればせながら、ようやく読み終えた。いつものことだけど、新刊発売日から間をあけずすぐに購入するくせに、勿体ぶっているのかなんなのか、しばらく放置する。で、ようやく周りのざわざわが一通り落…

『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』コーマック・マッカーシー|世界は残酷で、無慈悲で、報われない

『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』コーマック・マッカーシー 黒川敏行/訳 早川書房[ハヤカワepi文庫] 2023.4.17読了 いやはや、とても苦しい読書だった。逃げ続けて、撃たれて、撃って、多くの人が血を流し、死に絶えて、もう絶望しかないん…

『朝星夜星』朝井まかて|かつて日本で洋食を広めた人がいた

『朝星夜星』朝井まかて PHP研究所 2023.4.15読了 食べている時の幸せそうな様子を見て気に入ったから、ゆきを嫁に貰ったのだと丈吉は言う。根っからの料理人だから、食べ物で人を喜ばせ、それを直に感じたいのだろう。飲食店に限らないが、消費者の喜ぶ姿を…

『色彩を持たない田崎つくると、彼の巡礼の年』村上春樹|自信と勇気を持ちなさい

『色彩を持たない田崎つくると、彼の巡礼の年』村上春樹 ★ 文藝春秋[文春文庫] 2023.4.13読了 仲の良かった4人が突然つくるの元から去ってしまった。その理由を尋ねると「自分で考えればわかるんじゃないか」「自分に聞いてみろよ」と言われる。理由もわか…

『フラナリー・オコナー全短篇 』[上]フラナリー・オコナー|ラストが秀逸

『フラナリー・オコナー全短篇 』[上]フラナリー・オコナー 横山貞子/訳 筑摩書房[ちくま文庫] 2023.4.8読了 『善人はなかなかいない』 読み終えた後、すぐには意味がわからなかった。このラストはなにを意味しているのか、そもそもここで終わり?って…

『ゴリラ裁判の日』須藤古都離|人間と動物の違い、人権とは何か

『ゴリラ裁判の日』須藤古都離 講談社 2023.4.5読了 去年のメフィスト賞受賞作。講談社が主催するメフィスト賞はちょっと変わった風合いというか、わりあい突飛な作品が選ばれるイメージがある。エンタメ寄りで通が好みそうな感じ。私が手に取ったのはこの賞…

『カソウスキの行方』津村記久子|相手の良いところを見つけよう

『カソウスキの行方』津村記久子 講談社[講談社文庫] 2023.4.3読了 津村記久子さんお得意のお仕事小説かなと思っていたら、確かに職場の話ではあるけれど、アラサー女性の今後の生き方みたいなものが等身大の目線で書かれたものだ。雰囲気としては、芥川賞…

『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』小野一光|想像を絶する凄惨な虐待

『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』小野一光 ★ 文藝春秋 2023.4.2読了 この事件は記憶に残っている人が多いだろう。17歳の少女を監禁・傷害したとして中年男女が逮捕されたことから端を発して暴かれた連続殺人事件だ。しかし、あまりにも残忍だっ…

『転落』アルベール・カミュ|自分の中にある二面生

『転落』アルベール・カミュ 前山 悠/訳 光文社[光文社古典新訳文庫] 2023.3.29読了 オランダ・アムステルダムにあるバー「メキシコ・シティ」に足を踏み入れると、クラマンスが「どうぞどうぞ」と待っていましたとばかりに語りかけてくる。バーで知り合…