書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

海外(ア行の作家)

『スクイズ・プレー』ポール・ベンジャミン|もっとオースターさんの探偵ものが読みたくなる

『スクイズ・プレー』ポール・ベンジャミン 田口俊樹/訳 ★ 新潮社[新潮文庫] 2022.9.4読了 なんと、ポール・オースターさんが別名義で小説を書いていたなんて!Twitterでフォローしている方のツイート見て初めて知ったのだ。しかもこの作品はデビュー作に…

『ロボット・イン・ザ・ガーデン』デボラ・インストール|子供たちに読んで欲しい物語

『ロボット・イン・ザ・ガーデン』デボラ・インストール 松葉葉子/訳 小学館[小学館文庫] 2022.8.27読了 二宮和也さん主演の映画『タング』が現在公開されている。劇団四季のミュージカルも評判が良かったから、この原作は前から気になっていた。文庫の版…

『陽気なお葬式』リュドミラ・ウリツカヤ|周りの全てを好きになること

『陽気なお葬式』リュドミラ・ウリツカヤ 名倉有里/訳 新潮社[新潮クレスト・ブックス] 2022.8.13読了 タイトルがいい。お葬式が「陽気」だなんて。もちろん大切な人が亡くなることは辛く悲しいことだから悼むことは必要である。だけど、お葬式が「悲しい…

『もう行かなくては』イーユン・リー|人生を振り返るとき誰を想う

『もう行かなくては』イーユン・リー 篠森ゆりこ/訳 河出書房新社 2022.8.8読了 高齢者施設に住む81歳のリリアが、かつて恋人だったローランドの著作を読みながら過去を回想していくストーリーである。時間軸と構成がけっこうややこしくて難解に思えるけど…

『リリアンと燃える双子の終わらない夏』ケヴィン・ウィルソン|親友の語りを聞いているようで楽しくなる

『リリアンと燃える双子の終わらない夏』ケヴィン・ウィルソン 芹澤恵/訳 集英社 2022.6.30読了 表紙のイラストがとても気になって、パラパラとめくってみる。導入から自分の好みに感じたし、集英社のなめらかな字体が読みやすい。ソフトカバーであることも…

『夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』カズオ・イシグロ|短編を読むのはその作家が好きだから

『夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』カズオ・イシグロ 土屋政雄/訳 早川書房[ハヤカワepi文庫] 2022.5.23読了 カズオ・イシグロさんの短編集を読んだ。彼の短編を読むのは初めてである。短編を集めたものではなく書き下ろしの短編が5作収められ…

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』アンディ・ウィアー|ユーモアたっぷり、爽快な宇宙SF

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』上下 アンディ・ウィアー 小野田和子/訳 早川書房 2022.4.11読了 昨年末に刊行されてから話題になり、めちゃくちゃ売れているようで気になっていた。正直、SF作品は得意ではない。それでも単行本上下巻なのに翻訳ものに…

『暁の死線』ウイリアム・アイリッシュ|若い2人の推理と行動のプロセスを楽しむ

『暁の死線』ウイリアム・アイリッシュ 稲葉明雄/訳 東京創元社[創元推理文庫] 2022.4.7読了 先日読んだアイリッシュ著『幻の女』に心を奪われたので、2作目にこの作品を読んでみた。同じくタイムリミットサスペンスと呼ばれており、アイリッシュ氏の代表…

『高慢と偏見』ジェイン・オースティン|自負心と虚栄心は別物

『高慢と偏見』ジェイン・オースティン 大島一彦/訳 中央公論新社[中公文庫] 2022.3.26読了 イギリスの古典小説、それもとびきりおもしろい恋愛小説のひとつが『高慢と偏見』である。サマセット・モーム氏も世界の十大小説の一つに選んでいる。男性がこの…

『幻の女』ウイリアム・アイリッシュ|ストーリーも文体も完璧な名作

『幻の女』ウイリアム・アイリッシュ 黒原敏行/訳 ★ 早川書房 [ハヤカワミステリ文庫] 2022.2.19読了 ミステリなのにミステリファン以外からも根強く人気があり名作と名高い。おそらく、文章の美しさが読者を虜にする理由であろう。絶賛されている冒頭の…

『緑の天幕』リュドミラ・ウリツカヤ|重層的な連なりが感動を呼び起こす

『緑の天幕』リュドミラ・ウリツカヤ 前田和泉/訳 ★ 新潮クレスト・ブックス 2022.2.8読了 アメリカやイギリスの現代作家はよく読むけれど、ロシア現代作家の作品はあまり読むことがない。ロシアといえばドストエフスキー、トルストイなどの文豪が多く、そ…

『侍女の物語』マーガレット・アトウッド|女性が監視させられるサスペンスフルな世界

『侍女の物語』マーガレット・アトウッド 斎藤英治/訳 ハヤカワepi文庫 2021.11.22読了 オブフレットという女性の目を通して「侍女」として生き抜く様を描いたディストピア小説で、アトウッドさんの代表作のひとつである。この作品でいう「侍女」は、子供を…

『サイラス・マーナー』ジョージ・エリオット|人生の晩年に幸せがやってくること

『サイラス・マーナー』ジョージ・エリオット 小尾芙佐/訳 光文社古典新訳文庫 2021.11.10読了 機織り(はたおり)という職業については、現代社会で、さらに日本ではなかなか想像しにくい。サイラス・マーナーとは、この小説に登場する孤独な機織りの主人…

『ワインズバーグ、オハイオ』シャーウッド・アンダーソン|ある街での人々のいとなみ

『ワインズバーグ、オハイオ』シャーウッド・アンダーソン 上岡伸雄/訳 新潮文庫 2021.10.25読了 前から読みたかった小説である。期待していた通り、なかなか好みの作品であった。大切に、じっくりと、耳を澄ませて、街並みと人物を想像しながらゆっくりと…

『木曜殺人クラブ』リチャード・オスマン|彩りに満ちた老探偵たちとともに

『木曜殺人クラブ』リチャード・オスマン 羽田詩津子/訳 ★★ ハヤカワポケットミステリー 2021.9.27読了 この小説、刊行前から結構話題になっていたので、私も気になってついつい購入した。アガサ・クリスティー著『火曜殺人クラブ』はまだ未読だけれど、ミ…

『ある子馬裁判の記』ジェイムズ・オールドリッジ|みんなで議論をしよう|古い印刷技術のこと

『ある子馬裁判の記』ジェイムズ・オールドリッジ 中村妙子/訳 評論社 2021.8.18読了 ★ これは評論社の児童図書館シリーズに入っている子供向けの本である。どうしてこの本を読んだかというと、先日訪れた池袋の梟書茶房「ふくろう文庫」で自ら選んだものな…

『ミドルマーチ』ジョージ・エリオット|結婚がもたらす絆のかたち

『ミドルマーチ』1〜4 ジョージ・エリオット 廣野由美子/訳 ★★★ 光文社文庫 2021.6.24読了 ついに読み終えてしまった。いつまでもこの小説に浸りたい、読み終えるのが惜しいという感覚をひさびさに味わえた至福の読書時間だった。期待を裏切ることのない…

『動物農場』ジョージ・オーウェル|滑稽なのに恐ろしや

『動物農場』ジョージ・オーウェル 山形浩生/訳 ハヤカワepi文庫 2021.5.21読了 『一九八四年』と並ぶオーウェルさんのもう一つの代表作『動物農場』を読んだ。ブタの独裁政権の話であることは広く知られている。刊行されたのは1945年で古典の部類になるだ…

『クララとお日さま』カズオ・イシグロ|人の心に寄り添うこと

『クララとお日さま』カズオ・イシグロ 土屋政雄/訳 ★★★ 早川書房 2021.5.6読了 ノーベル文学賞受賞後、第1作目の長編小説である。カズオ・イシグロさんの本を単行本で購入したのは初めてかもしれない。やはり、イシグロさんはすごい。導入を少し読んだだけ…

『フォックス家の殺人』エラリイ・クイーン|探偵エアリイ、12年前の真実を暴けるか?

『フォックス家の殺人』エラリイ・クイーン 越前敏弥/訳 ハヤカワ文庫 2021.3.14読了 フォックス、つまりキツネである。目次に書かれた見出しを見ると、すべて「きつね」になっている。例えば「1 子ぎつねたち」「2 空飛ぶきつね」のように。この作品に登場…

『レストラン「ドイツ亭」』アネッテ・ヘス|ホロスコート裁判に向き合う|国民が知るべきこと

『レストラン「ドイツ亭」』アネッテ・ヘス 森内薫/訳 ★ 河出書房新社 2021.3.8読了 少し不気味な感じだけどかわいくもある表紙のイラスト(ついでに言うとゴッホ作「夜のカフェテラス」の構図や色合いに似ている)、タイトルの朴訥で大きめの字体に妙に惹…

『モルグ街の殺人・黄金虫 ポー短編集Ⅱ ミステリ編』エドガー・アラン・ポー|探偵はデュパンから生まれた

『モルグ街の殺人・黄金虫 ポー短編集Ⅱ ミステリ編』エドガー・アラン・ポー 巽孝之/訳 新潮文庫 2021.3.2読了 ポー氏の作品はかなり昔に何作かは絶対に読んだはずなのに、覚えていなかった。読んだということ、デュパンが出てきたことは頭にあったのに、こ…

『ラウィーニア』アーシュラ・K・ル=グウィン|古代ローマに生きる女性

『ラウィーニア』アーシュラ・K・ル=グウィン 谷垣暁美/訳 河出文庫 2021.2.15読了 実は私は『ゲド戦記』をちゃんと読んだことがない。アニメでも観ていない。ル=グウィンさんは『ゲド戦記』の作者であるが、他にも色々なSF・ファンタジー作品を残している…

『終りなき夜に生れつく』アガサ・クリスティー|ジプシーが丘の秘密

『終りなき夜に生れつく』アガサ・クリスティー 矢沢聖子/訳 ハヤカワ文庫 2021.2.13読了 クリスティー作品のなかでポワロもミス・マープルも出てこないノン・シリーズだ。一番有名なのは『そして誰もいなくなった』だろう。この『終りなき夜に生れつく』は…

『蠅の王』ウィリアム・ゴールディング|子供だけの世界で何が起きるか

『蠅の王』ウィリアム・ゴールディング 黒原敏行/訳 ハヤカワepi文庫 2021.2.5読了 ノーベル文学賞受賞作家、ウィリアム・ゴールディング氏の代表作だ。ハエはカタカナが一般的であるが、この小説では「蠅」である。「蝿」ではなく「蠅」なのが、視覚的に怖…

『ポケットにライ麦を』アガサ・クリスティー|物語として完璧|次に読む本の選び方

『ポケットにライ麦を』アガサ・クリスティー 山本やよい/訳 ★ ハヤカワ文庫 2021.1.28読了 次に読む本はみんなどうやって選ぶのだろう?本がないと生きにくい私は、未読の本をだいたい数十冊ストックしておきそこから選ぶのだけど、毎日のように迷いに迷う…

『スタイルズ荘の怪事件』アガサ・クリスティー/さぁ、ポアロ劇場はここから

『スタイルズ荘の怪事件』アガサ・クリスティー 矢沢聖子/訳 ハヤカワ文庫 2021.1.11読了 名探偵ポアロシリーズはちゃんと一話完結しているから、どれから読み始めてもいい。おもしろいと評判のもの、自分が興味のあるものだけを読むのも全然アリだ。私もそ…

『オリーヴ・キタリッジの生活』エリザベス・ストラウト/誰の日常にもドラマがある

『オリーヴ・キタリッジの生活』エリザベス・ストラウト 小川高義/訳 ★ ハヤカワepi文庫 2021.1.6読了 毎日こうして本を読んでいると、自分の好みの本は数頁読んでわかるものだ。私が大事にしている「読み心地の良さ」があり、読んでいる時間そのものが宝物…

『葬儀を終えて』アガサ・クリスティー/ミステリファンの心を掴む名作

『葬儀を終えて』アガサ・クリスティー 加賀山卓朗/訳 ハヤカワ文庫 2020.12.20読了 私立探偵ポアロシリーズの25作目。私が読むポアロ作品としては4作目である。クリスティー作品の中ではそんなに有名ではないけれど、私としてはすこぶるおもしろかった。何…

『湿地』アーナルデュル・インドリダソン/北欧アイスランド発警察ミステリ

『湿地』アーナルデュル・インドリダソン 柳沢由実子/訳 創元推理文庫 2020.12.13読了 アイスランドは人口約35万人の、北欧に浮かぶ島国だ。35万人というのは、奈良県奈良市や、埼玉県川口市と同じくらいの人口だ。東京でいえば23区のうちの一つ北区だけで3…