書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

海外(カ行の作家)

『眠れる美女たち』スティーヴン・キング オーウェン・キング|キング親子によるパニック小説

『眠れる美女たち』上下 スティーヴン・キング オーウェン・キング 白石朗/訳 文藝春秋[文春文庫] 2023.1.31読了 久しぶりのキング作品!本の最初にある登場人物紹介は、どんな人が出てくるのかな(名前というより関係性やら職業やらの事前知識として)と…

『ジュラシック・パーク』マイクル・クライトン|なぜこんなにも恐竜に魅了されるのか|withコロナ小説 

『ジュラシック・パーク』上下 マイクル・クライトン 酒井昭伸/訳 早川書房[ハヤカワ文庫] 2023.1.17読了 同名の映画を知らない人はいないだろう。私は確か中学生の時に映画館で観て、未知なる恐竜のうごめく姿とその映像技術の高さに圧倒されて、めちゃ…

『真珠湾の冬』ジェイムズ・ケストレル|読みやすい歴史ロマン大作

『真珠湾の冬』ジェイムズ・ケストレル 山中朝晶/訳 早川書房[ハヤカワポケットミステリー] 2023.1.9読了 ポケミスは手にして読んでいるだけでもやっぱりワクワクする。でも文庫に比べて高価だから、よほど好きな作家以外はチェックしていない。この作品…

『罪の壁』ウィンストン・グレアム|謎の人物を追い続ける|今年も素晴らしい読書ができますように

『罪の壁』ウィンストン・グレアム 三角和代/訳 新潮社[新潮文庫] 2022.12.30読了 新潮文庫で「海外の名作発掘シリーズ」なるものがあって、昨年12月に刊行されたのがこの作品。前に読んだポール・オースターがポール・ベンジャミン名義で刊行した『スク…

『ブラックサマーの殺人』M・W・クレイヴン|ポー、大変なことになった

『ブラックサマーの殺人』M・W・クレイヴン 東野さやか/訳 早川書房[早川文庫] 2022.12.29読了 ワシントン・ポーシリーズの第2作である。先月『ストーンサークルの殺人』を読み、とてもおもしろかったからあまり時間をかけずに続編を。イモレーション・マ…

『統合失調症の一族 遺伝か、環境か』ロバート・コルカー|家族とは何か

『統合失調症の一族 遺伝か、環境か』ロバート・コルカー 柴田裕之/訳 ★★ 早川書房 2022.11.27読了 こんな家族が実在したなんて信じられない。統合失調症以前に、今どき12人も子供を産む夫婦がいることにまず驚く。その子供のうち半数が統合失調症になって…

『みんなが手話で話した島』ノーラ・エレン・グロース|ある共同体に生まれた文化を紐解く

『みんなが手話で話した島』ノーラ・エレン・グロース 佐野正信/訳 早川書房[ハヤカワ・ノンフィクション文庫] 2022.11.19読了 コミュニケーション手段のメインが「言葉を発する会話」によるものだという概念を覆す作品だった。アメリカ東海岸・マサチュ…

『歩道橋の魔術師』呉明益|現実の世界にはない「本物」がきっとある

『歩道橋の魔術師』呉明益 天野健太郎/訳 河出書房新社[河出文庫] 2022.11.11読了 読んでいる自分がマジックに魅了されてしまったようだ。やられた!とかではなく、むしろ心地よい騙され感。そんな不思議な魔法に包まれている、ずっと読んでいたくなるよ…

『牧師館の殺人』アガサ・クリスティー|わちゃわちゃ感が半端ない

『牧師館の殺人』アガサ・クリスティー 羽田詩津子 早川書房[クリスティー文庫] 2022.11.7読了 ミス・マープルシリーズの最初の長編がこの『牧師館の殺人』である。順不同に読んでいるから今さら順番はどうでもいいのだけれど、なんとなく最初の事件は早め…

『ビトナ ソウルの空の下で』ル・クレジオ|雄大な空を飛ぶ自由な鳥のように

『ビトナ ソウルの空の下で』ル・クレジオ 中地義和/訳 作品社 2022.11.3読了 ノーベル賞作家、ル・クレジオさんの小説を初めて読んだ。彼はフランス人であるが、この作品の舞台は韓国・ソウル。ソウルと聞いただけで、先日の梨泰院の事故を思い出し辛くな…

『ストーンサークルの殺人』M・W・クレイヴン|ストーリーもさることながら、魅力はやはり登場人物たち

『ストーンサークルの殺人』M・W・クレイヴン 東野さやか/訳 ★ 早川書房[ハヤカワ・ミステリ文庫] 2022.11.2読了 この『ストーンサークルの殺人』から始まる〈ワシントン・ポー〉シリーズは既に邦訳が3巻まで刊行されており、どれも好評だ。ようやく第1巻…

『静寂の荒野』ダイアン・クック|自然と同化していく人間の本性

『静寂の荒野(ウィルダネス)』ダイアン・クック 上野元美/訳 早川書房 2022.10.6読了 雄大な自然の中で人間が生活するとはどういうことか、そのなかで親子の関係はどうなっていくのかを描いた重厚な物語である。近未来SF小説とのことで、この分野が苦手な…

『人生と運命』ワシーリー・グロスマン|自分の人生を切り開くのは自分の歩みによる

『人生と運命』123 ワシーリー・グロスマン 齋藤紘一/訳 みすず書房 2022.9.22読了 現代ロシア文学の傑作として名高い大作『人生と運命』を読み終えた。全三部作でとても長かったが、タイトルから想像できるように重厚で濃密な読書時間を堪能できた。小…

『ゼロ時間へ』アガサ・クリスティー|全てが集約される

『ゼロ時間へ』アガサ・クリスティー 三川基好/訳 早川書房[クリスティー文庫] 2022.9.15読了 タイトルにある「ゼロ時間」とは、刻一刻と迫る何かのタイムリミットなのか?いや、ここではクライマックスの最後の瞬間のことである。全てが集約されるゼロ時…

『遠い声 遠い部屋』トルーマン・カポーティ|豊潤な言葉遣いと比喩表現が美しい

『遠い声 遠い部屋』トルーマン・カポーティ 河野一郎/訳 新潮社[新潮文庫] 2022.8.11読了 アメリカ文学が無性に読みたくなり、手にしたのがこの本。カポーティさんの自伝的小説のようである。表紙の写真からは雄大な土地と空が立体的に感じられ、雰囲気…

『ゴルフ場殺人事件』アガサ・クリスティー|ポアロとジロー、ポアロとヘイスティングス

『ゴルフ場殺人事件』アガサ・クリスティー 田村義進/訳 早川書房[クリスティー文庫] 2022.7.17読了 エルキュール・ポアロシリーズ1作目『スタイルズ荘の怪事件』に続く2作目である。ポアロの友人ヘイスティングスが語る構成は、初回と同じである。それに…

『食べて、祈って、恋をして』エリザベス・ギルバート|自分を見つめ直し精神のバランスを取る

『食べて、祈って、恋をして』エリザベス・ギルバート 那波かおり/訳 早川書房[ハヤカワノンフィクション文庫] 2022.5.15読了 ジュリア・ロバーツ主演の同名映画がとても良かったと最近私の耳に入った。映画自体は2010年に放映された。その原作がこの本で…

『メキシカン・ゴシック』シルヴィア・モレノ=ガルシア|館で起こる怪奇世界にようこそ

『メキシカン・ゴシック』シルヴィア・モレノ=ガルシア 青木純子/訳 ★ 早川書房 2022.5.9読了 ゴシック小説の定義はよくわからないけど、とにかく最初から最後までとてもおもしろく読めた。ストーリー性と重厚さを併せ持つ作品には最近巡り合っていなかった…

『秘密機関』アガサ・クリスティー|何者をも恐れず突き進む精神

『秘密機関』アガサ・クリスティー 嵯峨静江/訳 早川書房[ハヤカワクリスティー文庫] 2022.5.5読了 ポアロでもミス・マープルでもないクリスティーさんのもう一つのシリーズものが「トミー&タペンス」で、その1作目がこの『秘密機関』である。私もここま…

『メソポタミヤの殺人』アガサ・クリスティー|ポアロのやり方には隙がない

『メソポタミヤの殺人』アガサ・クリスティー 田村義進/訳 早川書房[ハヤカワクリスティー文庫] 2022.4.29読了 メソポタミ「ヤ」ではなくメソポタミ「ア」ではないのかな?メソポタミア文明と習ったし通常メソポタミアと発音している気がする。どうでもい…

『動物会議』エーリヒ・ケストナー|子どものために戦争をやめよう|トリアーさんの素敵な絵

『動物会議』エーリヒ・ケストナー ヴァルター・トリアー/絵 池田香代子/訳 岩波書店 2022.3.10読了 ドイツで1949年に出版された絵本で、日本でもロングセラーとして読まれている。ケストナーさんといえば『飛ぶ教室』『ふたりのロッテ』が有名であるが、…

『変身』フランツ・カフカ|読みながら別のことを考える

『変身』フランツ・カフカ 川島隆/訳 角川書店[角川文庫] 2022.3.4読了 もう20年以上前に読んだはずなのに、目覚めたら自分が虫になっていたという冒頭のシーンが強烈でその後どうなったかをすっかり忘れていた。ひょっとすると全部読んでいなかったのか…

『マイケル・K』J.M.クッツェー|カボチャを愛おしく食べ、自然を自由に生きる

『マイケル・K』J.M.クッツェー くぼたのぞみ/訳 岩波文庫 2022.2.16読了 タイトルの『マイケル・K』というのは、主人公の名前である。姓をKと略して表現しているのがなんともおもしろい。障害を持つ彼が辿った運命がただひたすらに書き連ねられた物語だ。…

『火刑法廷』ジョン・ディクスン・カー|導入部が素晴らしく引き込まれる

『火刑法廷』ジョン・ディクスン・カー 加賀山卓朗/訳 ハヤカワ文庫 2022.2.13読了 火刑法廷とは、17世紀のフランスで行われた裁判の一種で、魔女、毒殺者と目された人物を火刑にするために開かれた。被告は拷問に付され、死体は火で焼かれたとされる(Wiki…

『火曜クラブ』アガサ・クリスティー|人間なんてみんな似たりよったり

『火曜クラブ』アガサ・クリスティー 中村妙子/訳 ハヤカワ文庫 2022.1.29読了 今年1冊めのクリスティー作品は短編集を選んだ。ミス・マープルものの短編であるが、去年読んだリチャード・オスマン著『木曜殺人クラブ』の設定にそっくりなこと。というか、…

『郵便配達は二度ベルを鳴らす』ケイン|読み終えたあとにじわじわと

『郵便配達は二度ベルを鳴らす』ジェイムズ・M・ケイン 池田真紀子/訳 光文社古典新訳文庫 2022.1.22読了 どうやらこの作品は何度も映画化されているようだ。流浪のフランクは、たまたま立ち寄ったレストランで働く美貌のコーラに惹かれる。このレストラン…

『ベルリン3部作』クラウス・コルドン|より良い世界に変えていくために

『ベルリン3部作』クラウス・コルドン 酒寄進一/訳 岩波少年文庫 2021.12.3読了 ずっと読みたかったコルドンさんの『ベルリン3部作』を読んだ。これは児童文学のカテゴリーで岩波少年文庫から刊行されている。侮ることなかれ、名作の多い岩波少年文庫、や…

『鏡は横にひび割れて』アガサ・クリスティー|マープルは安楽椅子探偵さながら

『鏡は横にひび割れて』アガサ・クリスティー 橋本福夫/訳 ハヤカワ文庫 2021.11.26読了 クリスティーさんの作品群のなかには、タイトルが斬新で目立つものが何冊かある。この作品もその一つだ。ミス・マープルシリーズの8作めである。 導入はミス・マープ…

『皇帝のかぎ煙草入れ』ジョン・ディクスン・カー|日本語以上に流暢な文章で傑作ミステリを

『皇帝のかぎ煙草入れ』ジョン・ディクスン・カー 駒月雅子/訳 創元推理文庫 2021.11.3読了 この作品はジョン・ディクスン・カーの多くの小説の中でも名作と名高く、そのトリックはアガサ・クリスティーをも脱帽させたと言わしめている。クリスティー作品を…

『ウォーターダンサー』タナハシ・コーツ|未だなお続く差別問題

『ウォーターダンサー』タナハシ・コーツ 上岡伸雄/訳 新潮クレスト・ブックス 2021.10.31読了 美しい装丁である。そしてタイトルもまた美しい。だけど、この美しい本の中に書かれているのは、自由を奪われたアメリカ南部の奴隷制度のことだ。現代でもなお…