書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

海外(カ行の作家)

『自転車泥棒』呉明益|心を込めて修理し、大切に使われるモノ

『自転車泥棒』呉明益 天野健太郎/訳 文春文庫 2021.10.21読了 台湾の情景を想像すると、なぜか懐かしく感じる。一度しか行ったことがないのに何故「懐かしさ」を感じるのだろうか。おそらく過去に台湾を舞台にした小説を読みそう感じたのだろう。台湾の歴…

『複眼人』呉明益|地球規模のファンタジー

『複眼人』呉明益(ご・めいえき) 小栗山智/訳 KADOKAWA 2021.8.23読了 東京オリンピック2020で新しく「サーフィン」が競技登録された。まだ記憶に新しいと思うが、男子サーフィンで見事銀メダルを獲得した五十嵐カノアさんが、競技終了後に海に向かってひ…

『クララとお日さま』カズオ・イシグロ|人の心に寄り添うこと

『クララとお日さま』カズオ・イシグロ 土屋政雄/訳 ★★★ 早川書房 2021.5.6読了 ノーベル文学賞受賞後、第1作目の長編小説である。カズオ・イシグロさんの本を単行本で購入したのは初めてかもしれない。やはり、イシグロさんはすごい。導入を少し読んだだけ…

『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ|郷愁と別れ、記憶について

『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ 土屋政雄/訳 ハヤカワepi文庫 2021.2.11読了 久しぶりにカズオ・イシグロさんの本を読んだ。この本は2回めの読了だ。イシグロさんがノーベル文学賞を受賞するずっと前、綾瀬はるかさんが同名のテレビドラマを演じる…

『ヒューマン・ファクター』グレアム・グリーン/人間が守りたいもの

『ヒューマン・ファクター』グレアム・グリーン 加賀山卓朗/訳 ハヤカワepi文庫 2021.1.16読了 先日、ジョン・ル・カレさんが亡くなった。彼の『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』というスパイ小説の傑作と名高い作品を読もうかと意気込んでいた…

『風の影』カルロス・ルイス・サフォン/本にまつわるファンタジー

『風の影』上下 カルロス・ルイス・サフォン 木村裕美/訳 集英社文庫 2020.12.28読了 スペインの国民作家、カルロス・ルイス・サフォン氏が今年6月に亡くなられた。追悼として書店に平積みされるまで、私は彼のことはもちろん作品さえ知らなかった。「忘れ…

『千の輝く太陽』カーレド・ホッセイニ/アフガニスタンで生き抜くこと

『千の輝く太陽』カーレド・ホッセイニ 土屋政雄/訳 ★★ ハヤカワepi文庫 2020.12.26読了 身体中の細胞が動揺して鳥肌が立つようだ。マリアムとライラという2人の女性の生い立ち、生き方に胸が痛くなる。それでも、時にはその痛みがなりを潜め、ふとした優し…

『ヴィルヘルム・マイスターの修行時代』ゲーテ/自己満足だけどなぜか読みたくなる

『ヴィルヘルム・マイスターの修行時代』上中下 ゲーテ 山崎章甫/訳 岩波文庫 2020.12.7読了 ドイツの文豪ゲーテ。トーマス・マン氏やヘルマン・ヘッセ氏の本は読んでいるけど、実はゲーテ作品はまだ読んだことがない。ゲーテといえば『ファウスト』なんだ…

『地下鉄道』コルソン・ホワイトヘッド/かつて黒人奴隷が生き延びるために

『地下鉄道』コルソン・ホワイトヘッド 谷崎由依/訳 ハヤカワepi文庫 2020.10.25読了 この本、単行本刊行当時からずっと気になっていた。長らく買おうか迷っていたのだが、今月の文庫本新刊コーナーに平積みされていて迷わずゲット。最近、文庫になるのが目…

『心は孤独な狩人』カーソン・マッカラーズ/誰もが抱える孤独

『心は孤独な狩人』カーソン・マッカラーズ 村上春樹/訳 新潮社 2020.10.1読了 こんな帯の文句が書かれていたら、村上春樹さんのファンは読みたくなるもの。 たとえ、カーソン・マッカラーズさんの名前を知らなくても、フィッツジェラルド、サリンジャーと…

『ペスト』カミュ/感染症は人間に教訓をもたらす

『ペスト』カミュ 宮崎嶺雄/訳 新潮文庫 2020.4.5読了 手帳に、気になる本や買おうとしている本をリスト化している。2〜3年前から『ペスト』もそこにあったのだが、1ヶ月くらい前にいざ買おうとしてみると、書店にもネット上にも姿を消していた。今世界を震…

『恥辱』J・M・クッツェー/都会と田舎の対比

『恥辱』J・M・クッツェー 鴻巣友季子/訳 ハヤカワepi文庫 2020.3.22読了 ノーベル文学賞を受賞しているが、まだ読んだことのないオランダ系南アフリカ人の作家さんだ。本作『恥辱』は書店でたまに見かける。恥辱とは、辱しめを受けること。52歳の大学教…

『遠い山なみの光』カズオ・イシグロ / 歳と経験を重ねてようやく理解できることもある

『遠い山なみの光』カズオ・イシグロ 小野寺健/訳 ハヤカワepi文庫 2019.11.23読了 カズオ・イシグロさんの小説で女性を主人公にしている作品は珍しいような気がする。それに、この小説に登場するのもほとんどが女性である。語り手の悦子が、過去を回想する…

『紙の動物園』ケン・リュウ / 柔らかく優しいSF作品集

『紙の動物園』 ケン・リュウ 古沢嘉通/編・訳 ハヤカワ文庫 2019.11.3読了 又吉直樹さんだけでなく、多くの人がお薦めしているこの作品、前から気になっていたけれど、短編だしな〜、SFだしな〜、と今まで読みあぐねていた。のだが、ついに。 この文庫本に…

『充たされざる者』カズオ・イシグロ / もがき、苦しみながら、もどかしいけれど読んでいたい小説

『充たされざる者』カズオ・イシグロ 古賀林幸/訳 ハヤカワepi文庫 2019.10.3読了 おそらく、カズオ・イシグロさんの小説(日本語訳されたもの)の中で一番の長編であろう。文庫本ではあるが、分厚いし重いし、値段もいい。940頁、1,500円。正直、特別面白…

『わたしたちが孤児だったころ』 カズオ・イシグロ / 自分にとっての真実を見つける

『わたしたちが孤児だったころ』 カズオ・イシグロ 入江真佐子/訳 ハヤカワepi文庫 2019.5.30読了 カズオ・イシグロさんの小説はじっくりと時間をかけて読む。イシグロさんが本当に伝えたいことがどこに潜んでいるかわからないから。訳文であっても損なわれ…

『浮世の画家』 カズオ・イシグロ / 読んでいるだけで心地良い感覚

『浮世の画家』 カズオ・イシグロ 飛田茂雄/訳 ハヤカワepi文庫 2019.2.23読了 カズオ・イシグロさんの小説は4冊めである。文庫本の『浮世の画家』は表紙が変わったなと思ったら新版とのことで、冒頭に序文が掲載されていた。この小説を書いた当時の話や時…