書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

海外(サ行の作家)

『高慢と偏見、そして殺人』P・ D・ジェイムズ|原作の世界観を損なわずに書くこと

『高慢と偏見、そして殺人』P・ D・ジェイムズ 羽田 羽田詩津子/訳 早川書房[ハヤカワポケットミステリー] 2022.4.2読了 偉大な小説の続きを別の作家が書くことは、大いなるプレッシャーがあるだろう。マーガレット・ミッチェル著『風と共に去りぬ』の続…

『白の闇』ジョゼ・サラマーゴ|人間は一体何を見ているのか

『白の闇』ジョゼ・サラマーゴ 雨沢泰/訳 河出書房新社[河出文庫] 2022.3.19読了 突然目が見えなくなってしまったら。今まで見えていた世界が白い闇に変わってしまったらどうなるのだろう。本を読むことを何よりも楽しみに生きている私にとってこれほどキ…

『死の味』P・D・ジェイムズ|ダルグリッシュの過去に一体何が?

『死の味』上下 P・D・ジェイムズ 青木久惠/訳 早川書房[ハヤカワ・ミステリ文庫] 2022.3.15読了 コーデリアシリーズがおもしろかったので、ダルグリッシュ警視ものに手を出してみた。犯人や動機、トリックを探るミステリなのに、私にはどう考えても濃密…

『三十の反撃』ソン・ウォンピョン|自分の未来と世界をよくするために

『三十の反撃』ソン・ウォンピョン 矢島暁子/訳 祥伝社 2022.3.7読了 どこにでもいるような普通の若者、非正規雇用で働く30歳のキム・ジヘがこの小説の主人公である。なんならキム・ジヘというありふれた名前も韓国では一番多いそうだ。カルチャーセンター…

『ヌヌ 完璧なベビーシッター』レイラ・スリマニ|信頼しあえる他人との関係は少しずつ築いていくしかない

『ヌヌ 完璧なベビーシッター』レイラ・スリマニ 松本百合子/訳 集英社[集英社文庫] 2022.3.5読了 ヌヌとは人の名前ではなくてベビーシッターのこと。フランスで乳母の意味をもつ「ヌーリス」が子供言葉のヌヌとなった。日本ではベビーシッターはあまり馴…

『象の旅』ジョゼ・サラマーゴ|人生は喝采と忘却

『象の旅』ジョゼ・サラマーゴ 木下眞穂/訳 ★ 書肆侃侃房 2022.2.25読了 ノーベル賞作家であるポルトガル人ジョゼ・サラマーゴさんのことはずっと気になっていて、まずは『白の闇』から読むべきかと思っていたのだが、この装丁に惹かれて思わず購入してしま…

『自由研究には向かない殺人』ホリー・ジャクソン|事件を解決するのは真に思い入れが強い人

『自由研究には向かない殺人』ホリー・ジャクソン 服部京子/訳 ★ 創元推理文庫 2022.1.24読了 昨年末から気になっていた本。表紙も雰囲気があってそそられる。ハヤカワミステリランキングを始めとし、このミスや文春の海外ミステリランキングの上位に食い込…

『皮膚の下の頭蓋骨』P.D.ジェイムズ|濃密な描写にうっとり

『皮膚の下の頭蓋骨』P.D.ジェイムズ 小泉喜美子/訳 ハヤカワ文庫 2022.1.12読了 このタイトル、なんだか不気味…。もう、タイトルだけで骸骨化した死体が登場する予感が満載。著者を知らずにはなかなか手に取りづらい。読み始めてすぐに、シェイクスピアな…

『天に焦がれて』パオロ・ジョルダーノ|ひたすらに美しい小説

『天に焦がれて』パオロ・ジョルダーノ 飯田亮介/訳 ★★ 早川書房 2022.1.8読了 至福の読書時間とはこのような本を読んだ時のことを言う。取り立てて何の変哲もない日に彩りをもたらす。特に夜更け過ぎ、水滴の音が響くほどの静寂の中で読み耽っていたのが最…

『女には向かない職業』P.D.ジェイムズ|確かに、若い美女が探偵業をするのは限界がある!?

『女には向かない職業』P.D.ジェイムズ 小泉喜美子/訳 ハヤカワ文庫 2022.1.3読了 ハヤカワ文庫では年に一度「ハヤカワ文庫の100冊」というフェアをやっている。去年も9月にラインナップが発表され、各書店で大々的に展開された。2021年は「つながる物語。…

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』トーマス・サヴェージ|鳥肌が立つほど感性を揺さぶられる名作!

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』トーマス・サヴェージ 波多野理彩子/訳 ★★ 角川文庫 2021.11.18読了 今日から一部の映画館で公開される同名映画の原作である。この作品自体かなり気になっていた。というのも、なんと『ブロークバックマウンテン』を彷彿とさせ…

『狭き門』ジッド|宗教的信念を貫くアリサ

『狭き門』アンドレ・ジッド 中条省平・中条志穂/訳 光文社古典新訳文庫 2021.10.14読了 聖書・マタイによる福音書七章抜粋 狭き門より入れ、滅びにいたる門は大きく、その路は広く、これより入る者おほし。生命にいたる門は狭く、その路は細く、これを見出…

『狼王ロボ シートン動物記』シートン|動物たちも感情豊かに生き抜くのだ

『狼王ロボ シートン動物記』シートン 藤原英司/訳 集英社文庫 2021.10.10読了 子供の頃に夢中になって読んだ『シートン動物記』と『ファーブル昆虫記』。全巻揃えたのか図書館で借りて読んだのかは覚えていないけれど、動物や昆虫など生き物について学ぶの…

『ロデリック・ハドソン』ヘンリー・ジェイムズ|芸術の街ローマで溺れる

『ロデリック・ハドソン』ヘンリー・ジェイムズ 行方昭夫/訳 講談社文芸文庫 2021.8.28読了 この作品の存在は知らなかった。ヘンリー・ジェイムズさん最初の長編小説ということで、60年ぶりに新訳になったそうだ。恋愛小説のカテゴリになるのだと思うが、芸…

『結婚という物語』タヤリ・ジョーンズ|夫婦のあり方、親子の絆

『結婚という物語』タヤリ・ジョーンズ 加藤洋子/訳 ★ ハーパーコリンズ・ジャパン 2021.7.15読了 赤の他人同士が「結婚」という契約を結んで、一緒に暮らしていく。人生を共にすること。家族をつくること。多くの人が生まれた時から一緒に住む親子の関係と…

『ホワイト・ティース』ゼイディー・スミス|歯は白い、みな同じ

『ホワイト・ティース』上下 ゼイディー・スミス 小竹由美子/訳 中公文庫 2021.7.6読了 新潮クレスト・ブックスで刊行されているのだが、絶版になり手に入りにくかったこの作品。このたび中公文庫から復刊されたのを知り、思わず書店でにんまり。 疾走感あ…

『ならずものがやってくる』ジェニファー・イーガン|ポップな現代アメリカ文学

『ならずものがやってくる』ジェニファー・イーガン 谷崎由依/訳 ハヤカワepi文庫 2021.3.30読了 2011年のピューリッツァー賞フィクション部門受賞作である。「ならずもの」とは何なのか?全く予想がつかず、一体どんな話なんだろう?と興味津々で読み進め…

『ロード・ジム』ジョセフ・コンラッド|マーロウの語りからジムを想像する

『ロード・ジム』ジョセフ・コンラッド 柴田元幸/訳 河出文庫 2021.3.20読了 ジムという1人の人間のことを、マーロウの視点で描いた壮大なる物語。マーロウといえば、チャンドラー作品に出てくる探偵フィリップ・マーロウが思い浮かぶけれど、ここではチャ…

『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』ジェフリー・ユージェニデス|少女たちのほのめかし

『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』ジェフリー・ユージェニデス 佐々田雅子/訳 ハヤカワepi文庫 2021.2.22読了 このタイトルにまず目を見張る。なんといっても「ヘビトンボ」だ。トンボの一種で、大顎で噛みつく習性を蛇にとらえてヘビトンボと名付け…

『マーティン・イーデン』ジャック・ロンドン|富と名声で他人を判断する

『マーティン・イーデン』ジャック・ロンドン 辻井栄滋/訳 白水社 2021.2.20読了 ジャック・ロンドン氏の作品で最も有名なのは『野性(荒野)の呼び声』だろう。私も去年読み、大自然の雄大さと生きるエネルギーを堪能した。この『マーティン・イーデン』は…

『アメリカン・プリズン 潜入記者の見た知られざる刑務所ビジネス』シェーン・バウアー|民間刑務所の驚くべき実態

『アメリカン・プリズン 潜入記者の見た知られざる刑務所ビジネス』シェーン・バウアー 満園真木/訳 東京創元社 2021.2.4読了 アメリカの人口は世界の5%であるのに、囚人数はなんと世界の25%を占めている。序章で語られたこの数字を見て驚く。確かに銃社会…

『一九八四年』ジョージ・オーウェル|洗脳政治とはこのこと

『一九八四年』ジョージ・オーウェル 高橋和久/訳 ★ ハヤカワepi文庫 2021.1.26読了 この小説、読んだ人も多いと思うが、読んでいなくても存在自体はほとんどの人が知っているのではないだろうか。書店に行けばハヤカワ文庫の棚に平積みされているし、紙の…

『コレクションズ』ジョナサン・フランゼン/ある家族のありのままを曝け出す

『コレクションズ』上下 ジョナサン・フランゼン 黒原敏行/訳 ハヤカワepi文庫 2021.1.23読了 現代アメリカにおける国民的作家の1人、ジョナサン・フランゼンさんについに手を伸ばしてしまった。『ピュリティ』や『フリーダム』が気になっていたのだが、分…

『ナイン・ストーリーズ』サリンジャー/読みたくなる類いの爽快な作品たち

『ナイン・ストーリーズ』J.D.サリンジャー 柴田元幸/訳 ヴィレッジブックス 2021.1.14読了 サリンジャーさんの作品は、どこか爽快なイメージがある。例えその小説が悲劇だとしても。読んだ作品の数はそう多くないのに、ふと思い出した時に読みたくなる類…

『アウグストゥス』ジョン・ウィリアムズ/ローマ帝国はいかにして生まれたのか

『アウグストゥス』ジョン・ウィリアムズ 布施由紀子/訳 作品社 2021.1.9読了 ローマの古代史、紀元前1年にローマ帝国が地中海世界を支配した時代を描いた作品である。その後は平和な200年と言われる「パックス・ロマーナ」になる。私は結構な年齢になるま…

『集英社ギャラリー[世界の文学]18 アメリカⅢ』ベロー、ボールドウィン、バース/アメリカ文学お腹いっぱい

『集英社ギャラリー[世界の文学]18 アメリカⅢ』ベロー、ボールドウィン、バース 集英社 2021.1.2読了 集英社が1989年から刊行した世界文学全集全20巻のうちの1冊、通し番号としては18でアメリカの3巻めである。巻末の紹介では「病める現代アメリカをえ…

『マーティン・ドレスラーの夢』スティーヴン・ミルハウザー/夢を追い続ける人は満足することがない

「マーティン・ドレスラーの夢』スティーヴン・ミルハウザー 柴田元幸/訳 ★ 白水Uブックス 2020.11.23読了 今年の夏にスティーヴン・ミルハウザーさんの『エドウィン・マルハウス』を読んで、その独特な世界観に圧倒された。次は柴田元幸さん訳の作品を読も…

『ファインダーズ・キーパーズ』スティーヴン・キング/小説を愛しすぎた故に

『ファインダーズ・キーパーズ』上下 スティーヴン・キング 白石朗/訳 ★ 文春文庫 2020.10.8読了 ちょうどひと月ほど前に読んだ『ミスター・メルセデス』の続き、ホッジズ刑事シリーズの2作目である。前作が面白かったからすぐに買っておきスタンバイしてい…

『ミスター・メルセデス』スティーヴン・キング/警察もの推理ミステリー

『ミスター・メルセデス』上下 スティーヴン・キング 白石朗/訳 ★ 文春文庫 2020.9.2読了 久しぶりのキング作品だ。キング氏の小説を読むときは、軽い気持ちで読めないから心して挑む。この作品はのちに続く『ファインダーズ・ キーパーズ 』『任務の終り』…

『真夜中の子供たち』サルマン・ラシュディ/幻想的な中に卑猥さがつきまとう

『真夜中の子供たち』上下 サルマン・ラシュディ 寺門泰彦/訳 岩波文庫 2020.8.15読了 元々早川書房から単行本として刊行されていたが、このたび岩波文庫より装い新たに刊行された。ブッカー賞を受賞し『百年の孤独』以来の衝撃と称されたこの作品、読まな…