書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

海外(ハ行の作家)

『無垢の博物館』オルハン・パムク|頬擦りしたくなるほど美しい作品を読んでしまった

『無垢の博物館』上下 オルハン・パムク 宮下遼/訳 ★★★ 早川書房[ハヤカワepi文庫] 2022.8.18読了 先日書店に行ったらハヤカワepi文庫で刊行されていて迷わず購入した。とても美しく、身体が痺れてしまうほど素晴らしい作品だった。どうしてこんな小説が…

『嘘の木』フランシス・ハーディング|純真無垢な心でファンタジーを読む

『嘘の木』フランシス・ハーディング 児玉敦子/訳 東京創元社[創元推理文庫] 2022.6.22読了 フランシス・ハーディングさんの小説は前から気になっていた。児童文学のようだからちょっと手を出しにくかったのだが、この本が文庫になっていたのでようやく読…

『水の墓碑銘』パトリシア・ハイスミス|忍耐と狂気の人間ヴィクの心理をさぐる

『水の墓碑銘』パトリシア・ハイスミス 柿沼瑛子/訳 河出書房新社[河出文庫] 2022.5.18読了 河出文庫からハイスミスさんの小説の改訳版が出た。久しぶりにあのゾクゾク感を味わいたくなった。彼女の小説は2作しか読んでいないが、どちらもおもしろく引き…

『ひとりの双子』ブリット・ベネット|生まれた自分で懸命に生きること|素晴らしい作品

『ひとりの双子』ブリット・ベネット 友廣純/訳 ★★★ 早川書房 2022.4.17読了 読み始めてすぐに、これは自分の好きなタイプの作品だと感じた。まずストーリーが抜群におもしろい。そして何より登場人物たちの息づかいが真に迫り感情に訴えかけてくる。どのキ…

『掃除婦のための手引き書ールシア・ベルリン作品集』ルシア・ベルリン|実体験に基づいた生の声

『掃除婦のための手引き書ールシア・ベルリン作品集』ルシア・ベルリン 岸本佐知子/訳 講談社[講談社文庫] 2022.4.3読了 表紙の女性が著者のルシア・ベルリンさんと知って驚いた。気高くとても美しい女性である。小説のようなエッセイのような、全てがル…

『感情教育』フローベール|意外と感情表現は少なく淡々と進むのです

『感情教育』上下 ギュスターヴ・フローベール 太田浩一/訳 光文社古典新訳文庫 2021.12.18読了 昔、フローベールの『ボヴァリー夫人』を読んだときに、実はそんなにおもしろいと感じなかったので彼の作品はあまり積極的に読もうという気がおきなかった。そ…

『消失の惑星』ジュリア・フィリップス|傷みを抱えた女性たち

『消失の惑星(ほし)』ジュリア・フィリップス 井上里/訳 早川書房 2021.12.13読了 ロシアの南端にあるカムチャツカ半島。モスクワから約7,000kmも離れたこの地域は、自然が多く残り、人口も僅か、そして人が住んでいる地域は限られている。この島のことは…

『ミシンの見る夢』ビアンカ・ピッツォルノ|手に職をつけること

『ミシンの見る夢』ビアンカ・ピッツォルノ 中山エツコ/訳 河出書房新社 2021.10.4読了 手に職をつけること。いくら時代が変わって、工場生産やAIでほとんどのものがまかなえるとしても、最後は人の手による細かな技術と知恵が必要である。これだけは未来永…

『夜はやさし』フィツジェラルド|大人のための小説

『夜はやさし』上下 フィツジェラルド 谷口陸男/訳 角川文庫 2021.8.9読了 フィツジェラルドさんの代表作は、言わずもがなで『グレート・ギャツビー』である。昔読んだ時にはあまりピンとこなかったのだが、最近再読したらとてもおもしろく読めた。次に有名…

『汚れなき子』ロミー・ハウスマン|違和感を少しずつ埋めていくミステリー

『汚(けが)れなき子』ロミー・ハウスマン 長田紫乃/訳 小学館文庫 2021.7.24読了 ある女性が事故のため救急車で病院に搬送された。一緒に運ばれたのは13歳のハナという少女。ハナの証言から、2人はある男性に監禁されていたことがわかる。物語は、ハナ、…

『舞踏会へ向かう三人の農夫』リチャード・パワーズ|1枚の写真から

『舞踏会へ向かう三人の農夫』上下 リチャード・パワーズ 柴田元幸/訳 河出文庫 2021.6.28読了 2年くらい前だろうか、リチャード・パワーズさんの『オーバーストーリー』という装丁の素晴らしい単行本が書店にずらっと並んでいて、手にとったものの値段もま…

『グレート・ギャツビー』フィツジェラルド|夢と栄光と、孤独

『グレート・ギャツビー』フィツジェラルド 野崎孝/訳 ★ 新潮文庫 2021.6.13読了 アメリカの小説を読みたくなる時がある。ポール・オースターさんの作品にしようか迷ったが、この本を手に取る。かなり前に村上春樹さん訳の本を読んだけどいまいちピンとこず…

『郝景芳短篇集』郝景芳|現代中国人作家が気になってきた

『郝景芳(ハオ・ジンファン)短篇集』郝景芳 及川茜/訳 白水社 2021.5.12読了 中国系アメリカ人作家のケン・リュウさんが郝景芳さんの『北京 折りたたみの都市』を絶賛して英訳し、作品はヒューゴー賞を受賞した。ケン・リュウさんがこの作品を含め中国SF…

『タタール人の砂漠』ブッツァーティ|良い人生だったと思いたい

『タタール人の砂漠』ブッツァーティ 脇功/訳 岩波文庫 2021.5.10読了 現代イタリア文学の鬼才で、カフカの再来と呼ばれているブッツァーティさん。神秘的、幻想的で、不条理を描いたら右に出る者がいないと言われている。元々気になってはいて、堀江敏幸さ…

『香水 ある人殺しの物語』パトリック・ジュースキント|本から立ち昇るニオイ

『香水 ある人殺しの物語』パトリック・ジュースキント 池内紀/訳 文春文庫 2021.5.1読了 去年、瑛人さんの『香水』という曲が流行した。TVで歌う姿もよく目にした。サビの部分が頭から離れず、口ずさむこともよくあった。そんな日本人は多かっただろう。 …

『約束の地 大統領回顧録 Ⅰ 』バラク・オバマ|選挙戦と第1期めの任期|隠れた英雄を讃えよう

『約束の地 大統領回顧録 Ⅰ 』上下 バラク・オバマ 山田文 三宅康雄・他/訳 ★ 集英社 2021.4.24読了 発売されてすぐに購入していたのが、なんだか読むのが勿体ないような、心を落ち着けてこれに挑む準備をしてからにしよう、など思っているうちに2ヶ月くら…

『デイジー・ミラー』ヘンリー・ジェイムズ|恋愛に対するアメリカ的な価値観

『デイジー・ミラー』ヘンリー・ジェイムズ 小川高義/訳 新潮文庫 2021.4.10読了 ヘンリー・ジェイムズ氏の『デイジー・ミラー』が新潮文庫から新訳で刊行された。初めて『ねじの回転』を読んだときに、ジェイムズさんの紡ぐ物語世界に引き込まれた。ホラー…

『父を撃った12の銃弾』ハンナ・ティンティ|じっくり読みたい父子の物語

『父を撃った12の銃弾』ハンナ・ティンティ 松本剛史/訳 ★ 文藝春秋 2021.4.4読了 物語に引き込まれるシーンが、最初の章の終わりにある。12の銃弾痕が身体に残るルーの父親ホーリーは上半身裸になる。陽の光を浴びて踊る姿が、スローモーションとなり鮮や…

『1984年に生まれて』郝景芳|哲学的かつ文学的な自伝体小説

『1984年に生まれて』郝景芳(ハオ・ジンファン) 櫻庭ゆみ子/訳 ★★ 中央公論新社 2021.2.9読了 少し前にジョージ・オーウェル著『一九八四年』を読んだのは、本作を読むための事前準備行為としてだった。オマージュ作品とも言えるようだし、さすがに先に読…

『ママ、最後の抱擁 わたしたちに動物の情動がわかるのか』フランス・ドゥ・ヴァール/地球規模で考えよう

『ママ、最後の抱擁 わたしたちに動物の情動がわかるのか』フランス・ドゥ・ヴァール 柴田裕之/訳 紀伊国屋書店 2020.11.25読了 情動は感情とは別物であると著者は言う。「感情」は内面の主観的状態であり、自分の感情については言葉で伝え合う。一方、「情…

『キャロル』パトリシア・ハイスミス/頭の中は愛する人でいっぱい

『キャロル』パトリシア・ハイスミス 柿沼瑛子/訳 河出文庫 2020.11.16読了 先日読んだ『太陽がいっぱい』で、リプリー作品には続きがあると知り読もうとしていたのだが、先にこの『キャロル』を読んだ。当時この小説はパトリシアさん名義ではなく、クレア…

『素数たちの孤独』パオロ・ジョルダーノ/生きることが得意でない者たち

『素数たちの孤独』パオロ・ジョルダーノ 飯田亮介/訳 ★★ ハヤカワepi文庫 2020.11.8読了 ヨーロッパでは再びロックダウンが始まり、日本でも、ここ最近の感染者数の増加に不安が高まる新型コロナウィルスの蔓延。今年の初めに流行の兆しが見え始めてから、…

『郷愁』ヘルマン・ヘッセ/青春とお酒、そして本を読む時の気の持ちよう

『郷愁』ヘルマン・ヘッセ 高橋健二/訳 新潮文庫 2020.10.21読了 ヘルマン・ヘッセさんの処女作であり出世作でもある『郷愁』、原題は『ペーター・カーメンチント』で主人公の名前である。いつも通り新潮文庫の表紙は野田あいさんのイラストで、なんとも言…

『太陽がいっぱい』パトリシア・ハイスミス/他人に成りすます

『太陽がいっぱい』パトリシア・ハイスミス 佐宗鈴夫/訳 河出文庫 2020.9.16読了 ずいぶん昔のことだが、マット・デイモンさん主演映画『リプリー』を観た。当時はそのストーリーと残虐性に取り憑かれ、なんて面白い映画だろうと思った記憶がある。そもそも…

『森の生活 ウォールデン』H.D.ソロー/自然界で生きよ

『森の生活(ウォールデン)』上下 H.D.ソロー 飯田実/訳 岩波文庫 2020.9.11読了 ウォールデンとはアメリカ・マサチューセッツ州にある湖のことである。この作品は、約170年前にヘンリー・デイヴィッド・ソローさんが2年2ヶ月に渡りウォールデン湖畔で自給…

『ブルックリン・フォリーズ』ポール・オースター/希望を失わずに生きる

『ブルックリン・フォリーズ』ポール・オースター 柴田元幸/訳 ★ 新潮文庫 2020.7.25読了 文庫になるのを楽しみにしていたのだけれど、表紙を見て単行本と印象が違い少し戸惑ってしまった。単行本のジャケットは線画で描かれていて、、何というかもっとお洒…

『知と愛』ヘルマン・ヘッセ/相反するものは表裏一体

『知と愛』ヘルマン・ヘッセ 高橋健二/訳 新潮文庫 2020.7.7読了 今年の4月以降、ヘッセ作品を読みあさっている。一貫して言えるのが、人間が生きることの意味を説いていること。特に本作品は信仰・哲学的な面がなお一層強く現れている。 原題は『ナルチス…

『青春は美わし』ヘルマン・ヘッセ/野田あいさんのイラストもうるわし

『青春は美わし(うるわし)』ヘルマン・ヘッセ 高橋健二/訳 新潮文庫 2020.6.14読了 再びヘッセ氏の小説を読んだ。表題作『青春は美わし』と『ラテン語学校生』という二編の短編が収められている。どちらも、若く瑞々しい青春の香り漂う作品である。 「う…

『サンセット・パーク』ポール・オースター/過去に決着をつけていく群像劇

『サンセット・パーク』ポール・オースター 柴田元幸/訳 新潮社 2020.6.11読了 ニューヨーク・ブルックリンにあるサンセット・パーク(実在する地名らしい)のある廃屋に、4人の男女が不法滞在する。今までのオースターさんの小説と何か違うなと思っていた…

『春の嵐』ヘルマン・ヘッセ/自分の人生を振り返るとき

『春の嵐』ヘルマン・ヘッセ 高橋健二/訳 新潮文庫 2020.5.20読了 あまり日を置かず、またヘッセ氏の小説を読んだ。最近の私のお気に入りのヘルマン・ヘッセ本、先日書店で4冊まとめて買ったのだ。ほとんどが新潮文庫で手に入るからわかりやすくていい。 こ…