書に耽る猿たち

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『宝島』 真藤順丈 / 生命力に溢れた沖縄という島の物語

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『宝島 HERO's ISLAND』 真藤順丈

講談社  2019.1.29読了

 

帯にもあるように、"熱量"と称されることが代名詞になっているかのような、第160回直木賞受賞作。最近の直木賞受賞作品は、個人的には好き嫌いがはっきりしており(近年では西加奈子さんの『サラバ!』が良かったくらい)、読むかどうしようか迷っていたが、大好きな作家の1人であり、また芥川賞選考委員である奥泉光さんがイチオシとのことで、早速読んでみた。

生きることへのエネルギーがほとばしる、弓なりになった身体から血潮が飛び散るような、生命力に溢れた物語であった。沖縄問題を考える上で、今だからこそ日本人が読むべきものだと思う。戦果アギヤーってなんぞや、多くの見慣れない単語もなんとか予測して読み進み、そしてルビにはあまり目も触れず(カタカナで読んでも意味がさっぱり)、漢字を追い追いしてるうちに、いつの間にか方言も沖縄言葉も気にならなくなる。戦後の沖縄はこんな風にアメリカの占領下にあり、こんなに苦しんでいたのかと、そして沖縄自体の日本ではないような外国感が半端ない。

バルガス=リョサの『楽園への道』を彷彿とさせる語り部の存在。読んでいる人にその場で語りかけ、そして立ち止まって考えさせる仕組み。なかなか骨太な文章を書く人だなと思った。何かで目にしたが、真藤さんは、30歳になった時に毎月1作品づつ文学賞に応募し、1作も受賞出来なかったら小説家になるのをやめるという覚悟だったそう。果たしてその年はなんと4つの賞を受賞し、そして小説家を続け、今年直木賞を受賞するまでになった。本気でやりたいこと、なりたいものがあれば、時間をかけてでもやり切ることがまさに大事で、その彼の"熱量”が今回の受賞にもつながったのだろう。作品からだけではなく、作者である真藤さんの生命力とエネルギーを感じた。

 私自身も沖縄には本島に2回訪れたことはあるが、あまり現地の方と触れ合う機会がなかった。また行くことがあれば、もっと沖縄の人と話をしてみたい。今なら違った視点で沖縄を感じられるだろう。