書に耽る猿たち

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『呪文』 星野智幸 / 今風の小説は今しか理解できないだろう

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『呪文』 星野智幸

河出文庫  2019.2.20読了

 

日も初読みの方の本。星野智幸さんの作品は、『俺俺』という小説が単行本で並んでいる時から興味を持っていた。タイトルからして、当時よくニュースになっていたオレオレ詐偽の話だなと思っていたのもあるが、表紙のイラストがやけに目についた記憶がある。

読みは『俺俺』ではなくこの『呪文』となったわけだが、今風の小説だなと思ったのが第一印象。ブログ炎上、ディスる、LINE、YouTube等、特に若者が当たり前のように目にしているもの、身近にあるものが小説の中にふんだんに散りばめられている。登場人物の名前も、桐生ではなく霧生、佐久間ではなく佐熊など漢字をあえて変えているものが多かったり、他の名前もありそうでない苗字ばかりで、なんとなく現代ではなく二次元の世界にいるよう。

阿部和重さんの小説をライトにしたような感じだろうか。阿部さんの小説は登場人物全員が変態というものすごくマニアックな設定の小説もある(これが意外と好きなのだ)が、この小説は、そこまでではないにしろ、登場人物の誰にも共感しにくい、というところでは少し似ているかもしれない。教祖めいたカリスマ図領の言葉はそんなに響かないのだが、信者的立場の人達は信じているような、でも何か心がこもっていないような、全体的に空虚さが感じられる。読者にこう感じさせるのもある意味すごいことなのではないのか?これが狙いなのか?

未来的かというと、これが日本の将来になるなら世も末だなと思う。会話文が多くこれもまた今風なのだが、個人的にはもう少し地の文を楽しみたいと感じる。共感は出来なくとも、意外とこういう小説は忘れられないものだ。