書に耽る猿たち

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『レディ・ジョーカー』 髙村薫 / 女性が描く男性心理

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レディ・ジョーカー』上・中・下  髙村薫  ★★

新潮文庫  2019.3.22読了

 

わずと知れた、グリコ・森永事件から着想を得たストーリー。同じモチーフの塩田武士さんの『罪の声』も良かったが、緻密な構成と深い人間考察、行間から漂うおどろおどろしさは髙村さんがやはり一枚上手(うわて)であった。何故かこのベストセラーをまだ読んでいなかった。髙村さんといえば、おそらく本作か『マークスの山』の2作が代表作であるのに。期待通り、ドキドキしながら読めた。ラストがどうなるか気になるからではなく、ただただ読んでいたい、読んでいることが楽しい作品であった。

人称で物語が進む。日之出麦酒代表城山ら役員、レディ・ジョーカー一味、東邦新聞の記者たち、強行犯捜査科合田(シリーズ主人公)をはじめとする警視庁捜査一課の刑事など。一人称ではないため、一歩離れたところから映画かドラマを見ているよう。主人公合田らの章ではなく、レディ・ジョーカーという集団の視点の章に入ると力がグッと入るのは何故だろう。犯罪心理を知りたいからなのだろうか。どんな気持ちが作用するのか知りたいからであろうか。

村さんが描くのは、もっぱら男性が多くて男性が書いているようである。桐野夏生さんの『猿の見た夢』の中年男性や西加奈子さんの『サラバ』の男の子は、少しだけ女性的なにおいがして、女性が描く男性という感じがする。けれど、髙村さんのそれは本当に男性のよう。と言っても女性である私からすると、男性に近いかどうかは想像でしかないのだが、髙村さんのファンは男性も女性も同じくらいいるということはきっと男性も共感できているのだろう。島田雅彦さんの『傾国子女』では、男性なのに女性の心理をよく掴んでいるなと唸らされたが、同様に髙村さんも男性心理をついているのだとしたら、異性の目線から違和感なく書けることも一つの才能だと思う。

「レディ」、この単語からイメージする女性とはとうてい想像しにくい人物にこのあだ名がつけられている。『レディ・ジョーカー』、素晴らしいタイトルだと思う。読めばわかるはず。

 

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