書に耽る猿たち

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『この世にたやすい仕事はない』 津村記久子 / 色々な仕事・職場を経験すると自分のことがよりわかる

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『この世にたやすい仕事はない』 津村記久子

新潮文庫  2019.3.26読了

 

14年間勤め上げた仕事に燃え尽き投げ出してしまい、ゆるーい仕事を求めて転々と職を変えていく36歳女性の話。世の中には、本当に色々な仕事があり、そしてどんなことでも仕事になるんだなと思った。たやすいかどうかは自分の気持ちのもちようである。

結局は、ゆるーい仕事とは、お小遣い稼ぎなど割り切って片手間でやるならいいけれど、心から打ち込む仕事ではないのだと思う。本当にやりたい仕事ならゆるく楽な仕事を選ばないだろうし、きっとこの女性も何か違うと感じて次々と職場を変えていったのだ。そして結局は元の仕事に戻っていく。色々な仕事をして、様々な人を見たからこそ、自分に合った仕事が、やりたいことがみつかった。そう、自分自身を理解できたのだ。

く一つのことを続けることももちろん大事だが、これは本当にやりたいことであったり、好きな仕事であれば、効力が発揮され自分の成長につながる。しかし、こと会社勤めの場合は少し違うように思う。自分の職場を見渡してみると、「この人仕事ができるな」と思う人は転職組であることが多い。職場を経験するとともに客観的に自分を見つけられて一つ上の段階に進めているのかもしれない。そして、転職組は出来る人と出来ない人が両極端な気がする。せっかく職場を変えても自分を理解できなかった人もいる。

から次へと仕事を紹介してくれる正門さんがかなりいい味を出しており、私としては一番気になる存在だった。登場人物の中で、こういう気になる人がいると読んでいてスパイスになる。

津村さんの小説は初読み。女性からみた仕事の在り方、働き方については共感を得られるだろうが、男性からするといまいちピンと来ないかもしれない。最初の「みはりの仕事」が一番面白く読めたかな。ただ、淡々と進んでいき少し中だるみになったフシがある。連作短編で話が進むが、なんとなく登場人物も似たような感じの人が出て来て予想できてしまう。次は長編小説を読んでみたい。

さて、明日も会社に行かなくては。