書に耽る猿たち

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『彼女に関する十二章』 中島京子 / 今を大事に丁寧に、自分の考えをしっかり持つ

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『彼女に関する十二章』 中島京子

中公文庫  2019.4.9読了

 

表紙に、「ミドルエイジを元気にする上質の長編小説」とある。確かに(というかおそらく)50代くらいの女性にとって、ある!ある!という気持ちになるようなエピソードが続く。私にはしばらく先の年齢だが、なんとなく想像が出来た。歳を重ねるのは、特に女性にとってはマイナスなイメージがあり、空恐ろしいようななんだかどんよりとした気持ちになるのだが、これを読むと捨てたもんじゃないぞと、少し希望が持てる。

いは誰にでも平等にやってくるため、どのように捉えるかが大事である。年齢を重ねたからこそわかる、喜怒哀楽、深い気持ちをつつましやかに感じられるようになりたい。そのためには、一日一日を大事に、丁寧に、自分の考えをしっかり持ち、生きていかなければならない。まだ未読だが、中島京子さんは『長いお別れ』という、これも老いをテーマにした作品がある。中島さん自身、きっと身近なテーマを小説という形で表現しているのだろう。高齢化社会が進む現在、「老後」「介護」「年金」など誰もが隣り合わせとなる問題がすぐそばに潜んでいるため、題材になりやすく、読者の感情にも響くのだ。

の小説は、伊藤整さんの『彼女に関する十二章』という昭和28年の作品がモチーフになっており、それと沿うような形で章が進む。今を生きる聖子の悩みはやはり昔の女性にもあり、表現方法は変わっても、時代とともに変わらないのが人間なのだろう。夫婦の掛け合いがなんともほほえましい。夫婦の会話が、何十年も一緒にいるからこその空気を醸し出していて心地よいのだ。伊藤整さんといえば、「伊藤整文学賞」という名前の賞は知っているけれども、まだ本人の作品は読んでいないと思う。名前が賞になっている人の作品は読んでおくべきだろうなぁ。