書に耽る猿たち

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『小僧の神様・城の崎にて』 志賀直哉 / 生かされた彼がこれからどのように歩んでいくか

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小僧の神様・城の崎にて』 志賀直哉

新潮文庫  2019.7.10読了

 

んやりとテレビを見ていたら、城崎温泉が映し出されていた。懐かしい。城崎温泉には2回訪れたことがある。浴衣を着て、地図を手に、いくつかの温泉を巡った記憶がある。そのテレビ番組では、志賀直哉さんの『城の崎にて』はここで執筆されたことも紹介されていた。文学史にも登場し、有名すぎるこの作品、実は読んだことがないかもしれないと思い手に取った。この短編集のタイトルになっているもう一つの作品『小僧の神様』、こちらは読んだことがあり、より世間に知られている。志賀直哉さんが小説の神様と言われる元になった作品だ。

『城の崎にて』はこんな話だったんだ。電車に跳ね飛ばされて怪我をし、養生のために1人で城崎に訪れた男性が3週間を過ごす。そこで鳥や魚や虫などの生物と対峙することで、生きることの意味を考える作品だ。「生きていることと死んでしまっていることは両極ではなく、それほどに差はないような気がした」とある。そんな風に思った彼だが、ではそうして死の狭間に一度身を置き生かされた後、意味もなくこれから生きていくのだろうか。短編なのでその後の彼のことはわからない。しかし、読者に、自分がどう生きればよいのかを問いかけているように感じた。表題作2作以外では、『佐々木の場合』が何となく良いなと思った。

れにしても昔の小説家の短編のなんと優れていることだろう。志賀直哉さんだけでなく、川端康成さん、中島敦さん然り。私は短編の名手と言えば、芥川龍之介さんだと思う。短編は、あぁ面白いと思うよりも、上手いなぁ、と作品の完成度についての感想がまず出てしまうのは何故だろう。本当は作品自体を感じるべきなのに。