書に耽る猿たち

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『不時着する流星たち』 小川洋子 / ストーリーには必ずモデルがある

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『不時着する流星たち』 小川洋子

角川文庫 2019.8.1読了

 

川 洋子さんの小説は繊細だ。長編小説でもそうだが、短編であればなおさら、丁寧に扱わないと壊れそう。小説が、本が、壊れるという表現はおかしいのに、何故だかそう思わせる。

の短編集は、それぞれの作品の後にモチーフとなった人物や出来事の説明がある。ストーリーや主人公のモデルが現実に存在するのだ。そこから着想を得て、小川さんが物語を作っていく。

『臨時実験補助員』を読んで、手紙を実際にばら撒き、特定の組織の評価を実験する「放置手紙調査法」が本当にアメリカであったとは驚いた。パトリシア・ハイスミスが、カタツムリを偏愛し、自宅で300匹も繁殖させたとは、単純にギョッとした。ここから『カタツムリの結婚式』が生まれる。思えば、どんな物語も作者が何らかの現象や出来事、人物からヒントを得て作るのだ。この作品集は、たまたま丁寧に説明をしてくれているようなもの。10の短編それぞれが、はかなく壊れそうなのだが、どこかで秘密めいた、少し怖いような感じがする。

川さんは少女のまま大人になったような人だと思う。悪い意味ではなく、見た目もどこかあどけなく幼げな雰囲気が漂う。物事の真実を見通す素直な心が失われていないのだろう。動物のことも好きなようだ。先日書店で、ゴリラ専門の霊長類学者、山際寿一さんと小川洋子さんの共同著書『ゴリラの森、言葉の海』という本を見つけた。これは猿好きであればなおさら読んでみたい。