書に耽る猿たち

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『ビビビ・ビ・バップ』 奥泉光 / あり得そうな未来のお話

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『ビビビ・ビ・バップ』 奥泉光

講談社文庫  2019.8.10読了

 

つも思うのだが、未来を描くディストピア小説を書く人の頭のなかはどうなっているんだろう?不思議なことこの上ない。現代ものは特段問題ないのは言わずもがな、歴史小説なら過去の文献を調べたり、膨大な資料から思い思いに書けると思う。しかし未来のこととなると、すべてが想像である。空想の世界だけであれば、小説一般がそうだが、未来の話とはいえ、読者に納得してもらわなくてはならないので、ある程度あり得そう(起こりそう)な未来を描かないと、読者がついてこない気がする。

来の本が、電子書籍なのはわかる(今もそうだし)が、この作品の中では、高分子ポリマーシートに文字情報をダウンロードするものが出てくる。自分の好きな書体や字組を自由に変えられたり、装丁の図柄も何万のサンプルから選べるとか本当に出来るようになるのだろうか?本って、紙の質やデザイン、匂いや字体も含めて、ひとつの個性である本なのに、なんだか無機質で嫌だなと思ってしまう。が、あり得そうかもしれない未来なので少しぞっとする。

ャズピアニストのファギーが、ロボット工学者である山萩氏から、架空墓でのピアノ演奏依頼を受けるところから物語は始まる。ジャズから始まり、将棋、音楽、絵画、文学、SF、本当にハチャメチャなのだが、誰でも一つは好きなジャンルがあり楽しめる。50ページくらい読んで、めちゃめちゃ面白い!と思っていたのだが、2/3くらいで中だるみをしてしまった。。少し長いかな。でも、これは一気に読まないとダメなやつだ、、と思いながら最後の方はさらっと読む。まぁ、こんな小説が書けるのも、奥泉さんしかいないだろうな。村上龍さんや大江健三郎さん、あとは海外のSF系が好きな人は楽しめると思う。

泉さんの小説は何冊か読んだが、やはり『雪の階』が一番良い。他の作品ももちろん良いし、彼の知識とめくるめく展開は小説好きな人なら術中にはまるだろう。しかし、誰にでも勧められるのは、去年柴田錬三郎賞を受賞した『雪の階』だ。大正浪漫漂うミステリーで映画やドラマにしても絶対に面白いだろう。