書に耽る猿たち

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『IT』スティーヴン・キング / 自分の「IT」をどうやって乗り越えるか

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『IT』1~4 スティーヴン・キング  小尾芙佐/訳  ★

文春文庫 2019.9.3読了

 

っと前から気になっていた作品である。1990年の映画も、ホラー映画史上最大のヒット作と言われている2017年のリメイク映画も、実は観ていない。怖いピエロ(ペニーワイズ)の画像と、ストーリーはなんとなく知っていた。映画は賛否両論あり、特にキング作品は原作と映像化でかなり違うとの声が多かったから、ずっと原作を読んでみたいと思っていたのだ。これが、とても面白かった!!どっぷりと「IT」の世界に浸かった10日間ほど。途中、風邪で寝込んでた2日間があったけど、早く読み進めたかった!

中になれるのは、悪をやっつける、というテーマがわかりやすく、子供も大人も楽しめること。簡単に言うと、子供にしか見えない残虐な殺人鬼、ピエロ(ペニーワイズ)に立ち向かい対峙する話。7人の仲間が、子供の時の話と大人になってから再結成した時の話と2つの時空が流れる(この時間軸の移り変わりがお見事過ぎる)。原作は文庫で全4巻あることもあり、小説好きにはたまらないほどの重厚感がある。何より、登場人物一人一人の設定が細かく、親、兄弟のことまでも詳細に記載されている。描写が緻密過ぎて、しっかり読まないと途中でわからなくなってしまうほどだ。何度頁を振り返って見たことか。

だ、このボリュームで、子供時代と大人時代の2つの時間が交互で表れているのに、登場人物紹介が本に記載されていなく、あれ、これは誰のことだっけ、と何度も頁をまさぐってしまった。そして、2巻の途中ではついに主要人物について自作の登場人物紹介を付箋に書いた。こんなことをやるのも久しぶりだが、それだけ各人物一人一人が魅力的なのと、ちゃんと把握して読み進めたい、と思えたからであろう。

中では、ペニーワイズというピエロの体をなした「IT」だが、本来の「IT」は実は皆それぞれ違う。子供時代にトラウマになっているもの、恐れているもの、嫌悪感を抱くものが自分にしか見えない形で現れる。読者にわかりやすくするために、ピエロは具体化されているだけ。きっと、誰にでも「IT」はあり、そしてそれぞれが抱えた「IT」をどう乗り越えていくか、どう向き合っていくか、そしてその為には、仲間の存在がいかに大事なのかを考えて欲しい、とキングは訴えているのだと思う。読み終えた後、再度1巻の最初の頁をめくる。この本を私の子供たちに捧げる、とある。素敵なメッセージだったので下記に一部引用する。

子供たちよ、小説とは虚構(つくりごと)のなかにある真実(ほんとう)のことで、この小説の真実とは、いたって単純だ-魔法は存在する。

れにしてもキングの小説は、ホラーとは一概に言えないと思う。映画であれば、『キャリー』『ミザリー』『シャイニング』など、ホラー映画としての地位が確立されているように思うが、『スタンド・バイ・ミー』『ショーシャンクの空に』『グリーンマイル』のような、ヒューマン映画も忘れてはならない。むしろ、本来はそちらのほうが際立っているのではないだろうか。比較されることが多い作家だが、数冊読んだジェフリー・ディーヴァーよりも、私はキングの方が圧倒的に好き。キングの作品では『11/22/63』が好きだったけど、今回の『IT』がそれを超えた!まだ、『ザ・スタンド』や『アンダー・ザ・ドーム』は未読だから、読むのが楽しみである。そして、『IT』は、2017年のリメイク映画の続編が、今年の11月に上映されるそうだ。少しだけ、気になるかな。小説にはかなわないのはわかっているけれど。