書に耽る猿たち

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『山の音』川端康成 / 死期を感じること

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『山の音』川端康成

新潮文庫 2019.9.5読了

 

わずと知れた、川端康成さんの名作、『山の音』である。戦後文学の最高峰と謳われる小説だが、まだ未読であった。何の小説だっただろうか、主人公が常に持ち歩いていた本がこの『山の音』だったことから、そういえばまだ読んでないなと思い出し、今回手に取ってみた。

齢に差し掛かる信吾が、深夜に得体の知れない山の音を聞いたことから、死期を告げられたような気持ちになる。その後は、何が起こるにしても、何を思うにしても、死へのカウントダウンが近づいているような、私たちまでそんな気持ちになる。さすが川端さん、文体は洗練されているのだが、人間の死に向かう時間と暗くどんよりとした空気が絶えず感じられた。

んというか、小島信夫さんの『抱擁家族』に少し似ているような気がした。今読むと、やはり少し古い感じが否めない。老境の夫婦と息子夫婦らをめぐる家族内の出来事がつらつらと書かれており、今より家族関係がより密接だと感じた。現代の核家族化した家族像にはあまり当てはまらないからか、昭和ならではの空気を感じるのだ。

話文のやり取りが、秀逸である。夫婦の掛け合いは長年寄り添った気兼ねない空気がある。息子との掛け合いはどこかよそよそしく、息子の妻との掛け合いはどこか艶めかしく柔らかな感じがある。川端さんの文章は、こんなにも地の文が少なかったろうか?敢えてテンポ良く会話文で成り立たせているのかもしれない。

の音、と言われたら波が立つ音のようなイメージが湧くが、山の音、とはどんな音だろう。確かに、少し怖いような気がする。本当に音として感じたのだろうか、自分の中で感じた想像の中での音かもしれない。