書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『ニックス』ネイサン・ヒル / 帯に書かれた宣伝文句を見極める

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『ニックス』ネイサン・ヒル  佐々田雅子/訳

早川書房  2019.9.14読了

 

に、「ジョン・アーヴィング絶賛!」とあれば、思わず手に取ってしまうだろう。しかし、ジョン・アーヴィングの本は数冊しか読んだことがないし、彼の作品が自分に合うかといえば、今のところそんな感じはしない。それなのに、なんとなく、この表紙のデザインも綺麗だったので読んでみることにした。

は10冊本を読んだとしたら、次の1冊は読んだことのない作者のものをなるべく読むようにしている。もちろん、好きな作家のものを手当たり次第読むのもいいのだが、自分が知らない新しい人の作品を読んでみたいのだ。たまにしかないが、あ、この人の小説はいいなとか、この小説家好きだなとか、読み心地が良い作品(著者)を見つけた時はかなり嬉しい。

ックスという名前の人物が登場人物なのかと思っていたが、そうではなかった。30代半ばのサミュエルの前に、過去に家を出て行き行方不明になっていた母親フェイが突然姿を現し、彼女の過去を調べていくというストーリーである。捨てられた息子と父親、だから本当は憎むべきで忘れたかった過去だったのに、思っていたフェイの姿とは異なる母親像に違和感を持ち、知られざる過去を暴いていく。血の繋がりがある親子でさえ、本当の相手のことはわからないんだろうな、わかろうとしても全てを理解することは不可能なのだろうと感じた。

去と現在の2つの時間軸で物語が進行していく構成。このパターンは最近とても多い気がする。アメリカの小説によくあるような、暴力(言葉の攻撃も含めて)や性描写は特にないのだが、現代アメリカの小説という感じがした。2段組で700頁を超す長編だが、そんなに読みにくくはなかった。これがデビュー作とは、読ませる力があるのだとは思う。けれども、私にはそんなに合わなかった。冒頭に書いた通り、自分に合う、気に入った作風の著者のおすすめではないから、期待してはいけなかったのだろう。