『ドリアン・グレイの肖像』オスカー・ワイルド 富士川義之/訳
岩波文庫 2019.10.28読了
著者も作品名も勿論知っていたが、実はオスカー・ワイルドの作品を読むのは初めてである。いや、童話『幸福な王子』はもしかしたら子供の頃に読んだかもしれない。『ドリアン・グレイの肖像』は有名過ぎる作品で、なんとなくあらすじは知っていた。 若く美貌のドリアンが、歳を重ねて醜くなるのを恐れ、自分は変わらず肖像画のほうが醜くなれば良いと強く想い…。
ホラー要素満載なのかと思っていたのだが、違っていた。確か映画にもなっており、映像にしたらホラーになりそうだけど、これは自らの美貌と周りからの賛美に焦がれたドリアンの、心理的、精神的に追い詰められ、心が醜く変貌する様を描いた物語だ。視覚からの恐怖ではなく、精神的な恐怖。
ドリアンの肖像画を描いた画家のバジル・ホールワールド、彼の友人ヘンリー卿、そして美貌のドリアン・グレイ。この3人の登場人物がメインだが、空恐ろしい考えを秘めているのが、ヘンリー卿だ。彼と出会ったことで、ドリアンの人生が変わってしまったと言っても過言ではない。ヘンリー卿は、自分の思想に影響されて変わるドリアンを見て、楽しんでいるかのようにすら見える。
ヘンリー卿から発っせられる言葉には、真実を突いたものが多い。だから彼の話に皆耳をすませてしまうのだ。終盤のこの言葉に、私はハッとさせられた。
「いや、きみねえ!何度も繰り返しやっていれば、どんなことだって快楽になるんだよ。それこそが人生の一番大事な秘訣の一つなんだ。」(425頁)
130年以上前の小説だとはまるで感じさせない。今回、新訳で時代に即している文章だということもあるが、人間の美への執着や、人間の生きる意味は時代が変わっても普遍的だからだろう。
肖像画は、確かに何か怖い感じがある。自画像は自分で描くが、肖像画は他人(画家)に自分を描いてもらうもの。鏡以上に、その人を表すのかもしれない。