書に耽る猿たち

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『オーガ(ニ)ズム』阿部和重 / 阿部ワールド全開

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『オーガ(ニ)ズム』阿部和重

文藝春秋 2019.11.2読了

 

部さんの新刊は読む前から楽しみ過ぎる。しかも神町シリーズなんて。分厚くて重くて持ち歩くのが大変だけど、期待を胸に込めて、さて読むぞ!と読み始める時のウキウキ感が半端ない。こういう気持ちになれる数少ない作家の1人が阿部さんである。

町サーガ3部作の完結編である。阿部さんの出身地である山形県のとある街が舞台となるシリーズ。前2作『シンセミア』『ピストルズ』は、阿部さんの代表作である。登場人物が全て変態であり、こんな小説あるのか、と思わせる内容で、文句なく面白い。

結編ではあるが、特に繋がっている話ではないので、本作だけを読んでも全く問題ない。が、前作に出てくる登場人物の名前も飛び交うので、2作を読んでからのほうがなお良し。「オーガニズム」、このタイトル、えっと、、「絶頂」と考えて良いのだろうか?一体どんな話なんだろう、と読む前は少しだけ困惑気味。

んと、主人公が阿部和重である。年齢も、子供も、妻も、職業や取り巻く環境も現実の阿部さんに近いので、どうもイメージしながら読んでしまう。血まみれになったCIAのラリー・タイテルバウムが突然阿部の自宅に現れるところから物語が始まる。神町の菖蒲(あやめ)家を監視し、謎を解き明かす目的で任務に当たるラリーと共に、阿部と息子映記が巻き込まれ、神町へ向かうことになる。

はり面白い(万人受けというよりも、どちらかというと阿部ワールドにはまるファンにはたまらないという面白さ)し、予測出来ないストーリー展開だからか、この分厚さにも関わらず読むのに飽きない。ひらがなと漢字の使い分けが逸脱している。こんなムチャクチャな話を考える純文学作家は阿部さんくらいだろうなー。でも、『シンセミア』や『ピストルズ』のほうが断然良かった。この2作の方が読みにくいんだけど、深く突き刺さる重たい高揚感みたいなものがずっしりと来る。文学ファンを唸らせる魅力があった。

れにしても、阿部さんはアメリカが好きである。映画や音楽も。そして、自分のことも大好きなようだ。小説家なんて、自分に酔いしれて、自分の世界を持てる人じゃないと書けないだろうな。また、次作に期待しよう。

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