書に耽る猿たち

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『永在する死と生』柳美里 / 伴侶とともに生きていく

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柳美里 自選作品集 第一巻 永在する死と生』柳美里

KKベストセラーズ  2019.11.20読了

 

美里さんの作品は好きなのだが、実はまだ『命』4部作を読んでいなかった。新潮文庫から刊行されている4冊は、今や書店にはなく、仕方なく中古でもいいからと考えていた矢先にこの自選作品集を見つけた。第1巻である本書は『命』4部作、『命』『魂』『生』『声』が全て収録されている。

はずっと勘違いしていた。柳美里さんが産んだ子供は、東由多加(ひがしゆたか)さんの子供だと思っていたのだ。東さんと10年間生活を共にしていたのは16歳から26歳まで、別れたあとは別の彼(妻帯者)と付き合っていて、その彼との間に子供が出来たことで、また東さんとこのような形で深く関わることになるとは。本書は、柳美里さんがお腹に赤ちゃんを宿し、ほぼ同時期に癌になった東との闘病生活と、産まれてきた丈陽(たけはる)くんとの育児生活をありのままに綴ったノンフィクションだ。

期がんの闘病の記録の物語と言ってももいい。読めば、生きることと死ぬことを深く考えざるを得ない。末期がんとの壮絶な戦い、苦しみ、その中にある幸せ、他人事とは思えない程の重みがあり、赤裸々に書かれている。そう遠くない未来に、自分の周りに病に侵される人が現れた場合、私も同じように出来るのだろうかと自問自答する。

れにしても、柳さんと東さんの関係性を一体どう表現したらいいだろうか。作中では、恋人、兄弟、家族、親友など全ての関係を持っているが、1番は「師」であったと述べている。文筆家柳美里を産み出した師匠であるからだ。もう離れられない、他の人では代用が効かない唯一無二の存在。こういう関係でいられたことが素晴らしいと思う。東さんという伴侶を亡くし、息子丈陽くんという伴侶にバトンタッチするかのように生きていくことを誓う。、丈陽くんはどのような思いで生きているのだろう。父親と呼べる人が近くにいなくとも、これを読んだら、自分がいかに大切に育てられたかがわかると思う。こんなにも情熱的で、こんなにも深い哀しみを乗り越えていった偉大な母親がいることにも、きっと喜びを見出すであろう。

美里さんの生き方には、決して共感できるわけではない。しかし、在日韓国人として生を受け、壮絶な人生を戦ってきた彼女に対しては尊敬の念を感じるし、彼女が奏でる文章は人の心を動かすものがある。

ょうど、3作目の『生』を読み終わった直後、柳美里選書の応募をした。柳美里さん自らが、その人に合わせて本をセレクトしてくれるというものだ。このためにHPから80項目のアンケートに答えなくはならず、ちょっと疲れた。。去年、福島県南相馬市にオープンさせた「フルハウス」というブックカフェで柳さん自らスタッフとして働く傍ら、イベントを開催したり、この選書も手掛けている。届くのはいつになるかわからないけれど、気長に待つことにしよう。

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