書に耽る猿たち

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『遠い山なみの光』カズオ・イシグロ / 歳と経験を重ねてようやく理解できることもある

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遠い山なみの光カズオ・イシグロ  小野寺健/訳

ハヤカワepi文庫 2019.11.23読了

 

ズオ・イシグロさんの小説で女性を主人公にしている作品は珍しいような気がする。それに、この小説に登場するのもほとんどが女性である。語り手の悦子が、過去を回想するというイシグロさんらしい進行スタイルだ。

はイギリスに住む悦子。過去に長崎に住んでいた時に知り合った、佐知子という女性との話がこの物語の中心になっている。まだ若く1人目の子供を妊娠中の悦子は、近所に住んでいるというだけで佐知子という女性と仲良くなる。佐知子には万里子という小学生の娘がいるが、この母娘は衝突ばかりでなかなか上手くいっていない。それを心配そうに見守る悦子がいる。

話文が多く、会話だけで成り立つシーンも多かった。その会話も、同じ台詞を何度も話す場面が多く、会話もずれているようでなんとももどかしい。しかし、それがこの小説の良さだと思う。悦子が歳と経験を重ねて、ようやく理解できたあの時の会話。今だからこそ理解できる佐知子の気持ち。私たちも、その時には理解できなくても、時間を掛けて振り返って始めてわかることはたくさんあると思う。その瞬間に全てを理解することは出来ないし、いつか理解できれば良いという事もあるのだ。

の作品がイシグロさん初の長編小説らしい。全体を通して、静かな暗闇と怖い雰囲気があるように感じた。やはり一筋縄ではいかない難しさがあるのだが、それを読み解いていこうとすることが、結構心地良かったりする。

 

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