書に耽る猿たち

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『沈黙法廷』佐々木譲/裁判を傍聴してみたい

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『沈黙法廷』佐々木譲

新潮文庫  2019.12.9読了

 

々木譲さんの『警官の血』が面白くて、一時期は佐々木さんの本をよく読んでいたのだが、数年ぶりである。ちなみに、『警官の血』は、ビートたけしさん主演でドラマ化されたが、それも結構面白かった。

回の小説は法廷ものだ。とはいえ、佐々木さんが得意とする警察小説の要素が盛りだくさんである。三章に別れており、それぞれの章に、捜査、逮捕、公判とタイトルがある。3分の2が警察を中心とするものだからか、警察小説と思えてしまうのだろう。

60代独り暮らしの男性の強盗殺人を巡り、1人のハウスキーパーが容疑者となる。容疑者の山本美紀の周りには過去にも不審な死が相次ぐ。ここまで来ると、もう10年以上前になろうか、首都圏連続殺人事件を思い出す人は多いと思う。資産家の独り住まいの高齢者をターゲットにした木嶋佳苗死刑囚。彼女を元に描いた作品、柚木麻子さんの『Butter』が記憶に新しい。

る意味、この事件や過去の保険金殺人のせいで、山本美紀への不信感は拭えない。佐々木さんも狙っているのだとは思うが。彼女が本当に殺人を犯したのか、動機は何か、浮かび上がる「中川綾子」とは誰なのか。謎が気になり、先へ先へとページをめくる手が止まらない。

かし、佐々木さんの小説はこんなにも読みやすかっただろうか。昔よりくだけた易しい文章になった気がする。淡々と物語が進み、あまり起伏がないような印象は否めない。ただやはり、文章が上手く、ストーリーも巧みなため、ベテラン作家という感じで安心して読めるのは間違いない。あっというスリリングさはないが、最初から最後まで読むペースを変えずに(読みにくい箇所がない)、読了出来た。

に、最後の公判の章は、ほとんどが会話文というか、弁論形式で進むため、裁判の張り詰めた緊張感が伝わってきた。私は裁判を傍聴したことはないが、一度はあの場に居合わせたい。出来ることなら、裁判員裁判に選出されたいとも思う。1人だけ、選出された人を身近に知っているが、なかなか精神的にも肉体的にもこたえるようだ。それはそうだろうな、同じ人間を裁くのだから。