書に耽る猿たち

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『みみずくは黄昏に飛びたつ』川上未映子・村上春樹/小説は信用取引で成り立つ

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『みみずくは黄昏に飛びたつ 川上未映子 訊く/村上春樹 語る』 川上未映子村上春樹

新潮文庫 2019.12.10読了

 

上春樹さんの小説のなかで、私の一番のお気に入りは、『騎士団長殺し』である。刊行されたのとほぼ同じくして、この対談集も単行本で書店に並んでいた。その時から早く読みたいな~と思っていたのだが、パラパラと捲ると、すぐ読み終わりそうだったので単行本は諦めて、文庫本を気長に待つことにした。そしてついにその時がやってきた。

の2人のタッグはほんとうにわくわくする。村上春樹さんも川上未映子さんも大好きな作家で、2人の作品はほとんど読んでいる。なんというか、同じ部類に属している感じがする。2人とも、私にとって読み心地が良い。本を読んでいて幸せに感じられる、とても大切な作家だ。

ンタビューをするから準備も万全だと思うが、村上作品を愛する川上さんの、鋭くそして幅広い質問が続く。もちろん村上さんに敬意を払いながら。何が面白いって、昔過ぎて村上さん本人が書いたことやエピソードを忘れているのに、川上さんのほうが覚えているということ。ひょっとすると、ファンの方が村上さんの文章を知ってるかもしれない。『騎士団殺し』に登場する「免色渉(めんしきわたる)」、私もこの字面を見てるだけで何だか寒気がするような恐怖を覚えたし、川上さんとおんなじだ。

に印象に残ったところは、小説は信用取引で成立しているという部分。

つまるところ、小説家にとって必要なのは、「お願いします」「わかりました」の信頼関係なんですよ。この人は悪いことしないだろう、変なこともしないだろうという、信頼する心があればこそ、本も買ってくれる。(中略)信用取引を成立させていくためには、こっちも出来るだけ時間と手間をかけて、丁寧に作品を作っていかなくちゃならない。読者というのは、集合的にはちゃんと見抜くんです。(167頁〜)

なるほど、期待外れな小説があったとしても、次は!と期待を込めて、また同じ作者のものを買うのはこの信頼関係があるからなんだ。一読者の私にも、そういう小説家は何人かいる。

説家同士の対談ということで、「モノを書くという行為」と2人の作品について、本から溢れ出んばかり充実の内容だ。私は、2人の考え方や作品に共感と敬意を持っているから楽しく読めたけれど、特に村上作品をあまり読んでない人には、ちんぷんかんぷんなところが多いだろうし、面白さは半減してしまうかもしれない。

は同じ作家の作品を続けて読むのが好きではない。好きな作家であればこそ少し眠らせておきたい。飽きるからというか、新鮮な気持ちで本に入っていきたいのだ。いくら幅広いテーマの作品を書く人でも、どうしても、似たような作品だったり、同じような展開、空気感になってしまうのは当然だから。今回、続けて新潮文庫を3冊(上中下もあったから、5冊かな)読んだのだけど、新潮文庫にもなんか飽きてきた。紙質や字体にも飽きる性分なのかしら(笑)。