書に耽る猿たち

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『奇蹟』中上健次/骨太で濃密な文体を堪能する

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『奇蹟』中上健次

河出文庫 2019.12.12読了

 

の本は、私の家にある「これから読む本たち」の箱に3~4年前から入っていた。いわゆる積読状態。一つ前に読んだ対談集に、中上健次さんの名前がちらほら挙がっていたので、気になって読むことにした。なんでも、村上春樹さんが言うには、あの時代(1970~80年代)は中上健次さんが文豪でひときわ目立った存在だったらしい。現代には中上さんのような小説家はいないとまで言っていた。昔、『岬』と『枯木灘』を読んで以来だ。濃密な文章と、血生臭さがつきまとう中上さんの小説。特別好きというわけでもないが、他の人には書けない凄みがある。

『奇蹟』は、読んだ2冊と比べると難しい。難しいというか、幻想的な始まりでしばらく読み進めないと理解しにくい。主人公は極道者の「タイチ」なのだが、もうタイチは死んでいて、語るのは精神病院にいる「トモノオジ」と産婆の「オリュウノオバ」だ。しかも実際はオリュウノオバもこの世にはおらず、トモノオジが作り出した幻影であるから、またまたわかりにくい。なんにせよ、路地に産まれたタイチが水死体となって発見されるまでの、壮絶な生涯が語られる。

直に言うと、感想を語れるほどこの小説を理解できていない。何度も読み返し、そしてオリュウノオバが登場する連作短編『千年の愉楽』を先に読んでからのほうが理解が深まるようだ。途中、ひとつの文章がとても長くて比喩が多く、なんとなくガルシア・マルケスみたいだなと思っていたら、解説者も「ガルシア・マルケスを思わせる魔術的リアリズム」と述べていた。あとは、登場人物もカタカナばかりで、大江健三郎さんの『燃え上がる緑の木』に雰囲気が似ている。

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 解不足とはいえ、ひとつ言えるのは、こんなにも骨太で濃密な文章を書ける人は滅多にいないだろうということ。まるで、文章が生きているみたいだ。本の中から、登場人物が勢いよく飛び出してしまいそうだ。中上さんが描く人物は、血気盛んで、地面を踏ん張り、生きることへのエネルギーを持て余しているような印象を受ける。