書に耽る猿たち

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『幻夏』太田愛 / 冤罪によるその後の人生

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『幻夏』太田愛   ★

角川文庫  2019.12.17 読了

 

月読んだ『犯罪者』シリーズの2作目である。1作目を読んだのが1か月前だし、その後家族に貸して本についても会話をしたからか、内容はほぼ鮮明に覚えている。今回の話は、交通課刑事、相馬に視点をおいた物語だ。

田谷区内で起きた少女連れ去り事件の応援要員として捜査にあたる相馬。一方で、友人で興信所に勤める鑓水(やりみず)の元には、23年前に消えた息子を探して欲しいと依頼が入る。これらが実は全て繋がっていて、相馬の23年前の夏の思い出と共にシンクロするストーリーだ。

罪という重くのしかかるテーマを、太田さんは突き詰めて書いている。冤罪のため長く刑期を務めた人だけでなく、家族、被害者を始め多くの人達の人生を壊す。確かに、真犯人を逃してはならないし、犯人が捕まらない状態も嫌だが、無実の人に罪をきせることも立派な犯罪に値するのではないだろうか。今でさえ、事情聴取の在り方についてはオープンになってきてはいるが、やっていない犯罪を自白せざるを得ない状況というのは身に余りある。警察、検察、裁判所の在り方が問われる。しかも、現代はマスコミの報道やSNSによって情報がたちまち拡散されるため、一度犯罪者というレッテルを貼られた人は、それを覆すことは並大抵ではない。

たしても、太田さんにうまくはめられて、先へ先へと頁をめくる手が止まらなかった。一読者の私が言うのもおこがましいが、前作に比べると、小説としてのまとまりが良くなっていると思う。章の終わりにあった、くどすぎる文章も減っている。やはり、小説も書けば書くほど文章が上達する。ストーリーを産み出すことはほとんど才能なのかもしれないが。

聴器は、盗聴するために持ち歩いているのではなく、録音をやめるために持ち歩いている。人は、録音をやめた時に心を許す。なるほど、これが、相棒の脚本を手掛けている人らしいなぁと。杉下右京さんがこの台詞を発する姿すら想像出来る。

30代前半くらいまでは、子供の目線で書かれたものがどうも好きではなかった。もう、自分は大人なんだからとか、今更青春の話もなぁとか。でも、最近は子供の話もいいなと思えるようになってきた。なんだか、郷愁漂うような懐かしいようなこそばゆいような。子供にとってのあるひと夏の出来事は、大人の私たちからみると時間にしても僅かで大したことないのだけれど、きっと子供には忘れられない記憶になるのだろう。

回の『犯罪者』は修司、今回の『幻夏』は相馬、そして3作目『天上の葦』は鑓水が主役となる。実はもう『天上の葦』も買ってあり、読むのが楽しみである。これでこのシリーズが終わりになるようで、何となく読むのがもったいないようなそんな気分だ。

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