書に耽る猿たち

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『熱源』川越宗一/極寒の地に生きるための熱がこもる

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『熱源』川越宗一

文藝春秋   2020.2.15読了

 

月発表になったばかりで、どの書店にもうず高く積み上げられている第162回直木賞受賞作。発表後、芥川賞は受賞作品なしにするかという話にもなり難航したようだが、直木賞については満場一致で『熱源』だったとの記事を読んだから、絶対読もうと思っていた。

染みのない樺太アイヌのこと、サハリン島のことが壮大な雪景色と共に語られる。犬橇やトナカイと聞くだけで極寒の地域が目に浮かぶ。フィクションとは言えど史実を元にしたこの小説は、あまり今まで読んだことのない題材だったため、最初から最後まで飽きることなく楽しめた。

太出身のアイヌで幼少期に北海道に住んだヤヨマネフクと、ポーランド出身でありながらロシア皇帝暗殺を謀った罪でシベリア(樺太)に流刑されたブロニスワフのパートの2つの視点で物語が進むが、やがて絡み合っていく。

を知らないギリヤーク(樺太北部に住む少数民族)に嘘をついて法的書類にサインをさせた農夫たち、そしてそれをあざ笑う警官。結果ギリヤークは土地を明け渡し村を移住せざるを得なくなる。非道な行いにブロニスワフは憤りを覚える。

彼らは生きています。生かされているわけでも、生きる意志に欠けているわけでもありません。彼らが直面している困難は、文明を名乗る彼らに不利なルールと流刑植民という政策、そして行政の怠惰です。(中略)我々には彼らの知性を論ずる前に出来ることがあります、豊かな者は与え、知る者は教える、共に生きる、絶望の時には支え合う。(第二章サハリン島 163頁)

こう論じてアイヌの子供たちのために学校を作るのだ。ブロニスワフが流刑の地で絶望から這い上がれたのは、アイヌたちに生きるための熱を分けてもらい、支えられたからなのだ。だから、自分が出来ることを彼らにしたい。

の小説では、生きるための熱の源は「人」であると書かれている。どんな国に生まれ、どんな環境で育てられようと、結局は「人」がエネルギーになるのだ。今でもどこかの国で戦争があり、どんな国でも貧困や差別があり、社会、学校、そして最小単位の家庭ですら衝突がありいがみ合う、毎日そんなニュースばかりだ。もっと人と人とが支え合えるようになれば、少しでも平和な世界になると思う。そして、現代社会は自然の恵みを有効活用出来ていない。これを読んでなおそう思った。利便性を求めて機械化するだけではなく、いまある自然環境と共存することが大切なのではないか。

越さんは、会社員として働きながら小説を書いているそうだ。普段は満員電車に揺られ、そして休みの日には家族と過ごし、自分の時間に執筆しているのだろうか。直木賞を受賞するまでも大変だが、多くの人を魅了する作品を書き続けることはもっと大変だろう。同世代として応援したい。