『魔術はささやく』宮部みゆき
新潮文庫 2020.3.3読了
宮部さんの作品は数え切れないほど読んでいるのに、思えば、宮部さんの作家生活でかなり初期にあたる本作はまだ未読だった。この作品で1989年に日本推理サスペンス大賞を受賞している。
なんだか松本清張さんの小説を読んでるような感じだった。場面の移り変わり方や、作者が俯瞰して登場人物を語るようなところとか。多少古い感じはするのだけど、推理小説らしく王道ミステリといったところだろうか。
3つの自殺(あるいは事故)が発生。一見それらに関係性があるとは思えないのだが、1人の少年が3件の死亡についての関わりを見付ける。もしかしたら、もう1人の人物も狙われているのではないかと。
誰のことが語られているのかあえて不明瞭にしているところが多く、読者に謎を投げかける。スリリングな展開と、時にヒューマンドラマを感じさせるストーリーは読む者を魅了する。個人的には、一部のトリックに疑問を感じるところがあったけれど。
文藝評論家である北上次郎さんが文庫の解説をされている。さすが書評を生業にしているだけあり、上手い解説だ。作品を読む前に解説や後書きやらを読む人がいたら、きっとワクワクして作品を読み始めるであろう(私は、ネタバレがないとしても、解説や後書きは絶対に最初に読まない派だけど)。この小説のタイトルにあるように、「魔術」なるものがキーワードとなるのだが、北上さんが言うには、読者は宮部さんの魔術にかかっているのだそう。
そういえば、去年買った北上さんの『書評稼業四十年』という本がまだ家に積読状態だけど、そろそろ読もうかしら。そして、宮部さんの『龍は眠る』を褒めていたからこれも読みたい。