書に耽る猿たち

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『コンニャク屋漂流記』星野博美/自分のルーツを辿る

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『コンニャク屋漂流記』星野博美

文春文庫  2020.3.28読了

 

保町にある大好きな新刊書店に、星野博美さんの本がいくつか平積みされていた。これは何だろう?見たことも聞いたこともない著者だし、タイトルも変わっている。たまには、いつも選ばない本でも読んでみるか。

れは、ノンフィクション・紀行文作家である星野さん自らの祖先のルーツを辿るノンフィクションだ。そもそも、「コンニャク屋」って、あのおでんのタネの蒟蒻のこと?と疑問を抱きながら読んでいく。

もそものきっかけは、父方の祖父が死ぬ間際に綴った手記だった。亡き祖父量太郎は千葉外房の岩和田で漁師だった。何故かその屋号が「コンニャク屋」だったのだ。謎を探るために400年もの時空を超えて祖先のルーツを紐解く。五反田から始まり、岩和田、紀州に至るまで。

「人はどんな時、家族の歴史を知りたくなったり、人に伝えたくなったりするのか。それは終わりが近づいている時。」という文章があった。星野さんの祖父は生前力を振り絞って手記を綴ったが、遠い親戚である老体の榮三さんも同じように家族のルーツを探っていた。人は自分の先がもう長くないと思った時に、生きた証を忘れまい、消したくないとして、自分の歴史を見つめ直すのかもしれない。いつか、私もそんな気待ちになるのかなぁ。はるか昔を辿れば、歴史的な出来事に結び付いてるのかもしれないと考えたら確かに面白いかも。

くもまぁこれだけの量を書けたものだ。他人の祖先を探るなんて、関係ない私たちにとっては興味もないのにと思っていたけれど、なかなか星野さんは読ませる文章を書くのだ。色々なエピソードが笑わせる。ちょっした日常の一コマが、魔法のようになる。何より星野さんが描く人物の温かさが身近に感じられてほっこりとする。長くて途中からだれてしまったが、気付いたら読み終えていた。

野さんの遠い親戚が、この『コンニャク屋漂流記』を毎回楽しみにしていると言っていたから、何かの雑誌に数回に渡って連載されたのかもしれない。この手のものは、連載ごとにさらりと楽しむ読み方が合ってるのかも。