書に耽る猿たち

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『美しい星』三島由紀夫/人間の美しさを宇宙から説く

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『美しい星』三島由紀夫  ★

新潮文庫  2020.4.14読了

 

本で1番美しい文章を書く人は誰かと聞かれたら、加賀乙彦さんや辻邦生さんも迷うのだが、やはり私は三島由紀夫さんと答えるだろう。もちろん、彼の描くストーリーや思想に心を突き動かされるのだが、文章そのものに、ただただ興奮し感動するのである。本当に、優美で儚げで逞しい。

島さんの長編小説はほとんど読んでいるが、この『美しい国』はまだ未読だった。SF作品と聞いていたので何となく手が出なかったのだが、これがなんと、面白かったというか深く美しい作品だった。宇宙やら円盤(UFO)やらが出てくるため、確かにいつもの三島作品と異なるなと思っていたけれど、中身は三島さんの思想や哲学で溢れていたのである。

分たちが宇宙人であると信じ、深夜に飯能市の自宅から車で出かけ、空飛ぶ円盤を見に行く大杉一家。宇宙人といっても、夫・重一郎、妻・伊余子、息子・一雄、娘・暁子、それぞれ異なる星からやって来たという。純文学でこんなに荒唐無稽な設定の作品は珍しい。どんな風に話が進むのかと俄然興味が湧く。

宙という広大なスケールで地球を見つめることで、人間の愚かさ、儚さ、小ささ、そして美しさというものを三島さんの思想で説く。地球を卑しいものとしながらも、間違った方向に人類が進まないように、未来を見据えて導くかのように。中でも、重一郎と仙台からやって来た羽黒一派(作中では彼らも白鳥座という惑星から来たという宇宙人)との問答が繰り広げられる第八章、九章は圧巻である。

待以上の作品であったが、三島さんの文章の美しさ、凛々しさが際立っている。1つだけ紹介しよう。

偶然とは、人間どもの理解をこえた高い必然が、ふだんは厚いマントに身を隠しているのに、ちらとその素肌の一部をのぞかせてしまった現象なのだ。(106頁)

んなにも格調高く理知的で美しい文章はどうしたら書けるのだろうか。三島さんの小説では、頁ごとに眼を見張る美しい文章に溢れているから、見逃さないようにじっくりと読まなくてはならない。噛み締めて文章を堪能するという幸せ。また、三島さんの作品を読み直そうかな。

し前に『三島由紀夫vs.東大全共闘 50年目の真実』という映画の上映が始まったが、コロナウイルス感染が心配で映画館に行くのがどうも億劫になり、緊急事態宣言でついには映画館も閉館になってしまった。感染が収束して無事に映画館が開館したら、また上映されますように。