書に耽る猿たち

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『龍は眠る』宮部みゆき/サイキックは生きづらい

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『龍は眠る』宮部みゆき  ★

新潮文庫  2020.4.18読了

 

月読んだ『魔術はささやく』に次いで、これも宮部みゆきさんのかなり初期、1992年に書かれた作品だ。およそ30年前かぁ、こう考えると宮部さんは、筆力が衰えることもなくずっと第一線で活躍されていて本当にすごい作家さんだ。

し、他人の心が読めるサイキック(超常能力者)がいたとしたら、どうなんだろう?近しい人にそんな力があったら?そして自分がそうだったら?子供心にイタズラが出来たり、賭けで儲けることも出来るだろうし、一見羨ましいと思うかもしれない。しかし、本当にそうだろうか?この小説で登場する稲村慎司と織田直也という2人の青少年はサイキックだ。彼らの話を聞いていると恐ろしくなる。人の心が見えるなんて嫌なことばかりだ。知らないから幸せだということ、理解出来ないから平気でいられることで生活が成り立ってる、まさしくその通りだ。

らかに超常現象を扱っている作品なのだが、すんなりと物語を読み進められるのは、語り手である雑誌記者の高坂が、我々と同じ(サイキックではなく)普通の人だからである。それも物語の終盤まで、サイキックの2人を信じてあげたいと思いながらも心のどこかではあり得ないと疑っているのだ。だからこそ、読者も共感して読み進められる。この辺りが、前回読んだ『魔術はささやく』よりも上手だと感じた。

しかすると、年間自殺者数の中で、サイキックである人が多少いるのではないか?だって、遺書も残さず、何故亡くなったのかわからない人ってたくさんいる。自分がサイキックであり、苦しくて耐え切れず、生きられないと感じて自ら命を絶つこともあるのではないか…。

ケベルや禁煙パイポ(懐かしい!CMを思い出してしまった!)が出て来たり、平成初期を思い起こさせる。設定自体はいささか古いのだけれど、今読んでも小説としての面白さは全く損なわれず、 むしろ現代の新鋭ミステリ作家と比べて、ストーリー、プロットの緻密さが際立っているから、宮部さんさすが!と唸らされるほどだ。奥付を見ると、平成31年4月で73刷だ。現役の小説家の中では、新潮文庫で一番売れているのが確か宮部さんだったはず。

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