書に耽る猿たち

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『よその島』井上荒野/深く真摯な愛の話

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『よその島』井上荒野

中央公論新社  2020.4.20読了

 

の父親と瀬戸内寂聴さんの不倫を扱った話題の本『あちらにいる鬼』を読もうとしていたのに、書店に平積みされた新刊に何故か手が伸びてしまった。これって、本好き・書店好きあるあるですよね、きっと。どうも平積みされた本が気になってしまう。本からも見つめられているような気がしてしまう。

台は、よその島。本島から飛行機で30分あまりの離島である。ここに、高齢の碇谷(いかりや)夫婦とその友人野間が共同生活を始める。60代後半になって、何故逃げるようにここに移ってきたのか、何のためかー。

人称で交互に語られるにつれ、それぞれの想い、過去の過ちのようなものが徐々にあぶり出されていく。誰もが秘密を持ち、疑いながら毎日を過ごす。共同生活をする彼らだけでなく、家政婦、隣人、島で出会う人々、誰を信じたらいいのかわからないように、皆などこかぎすぎすした探り合いをしているように感じられる。読んでいる私はどこかしっくりこない違和感を感じている。

れでも、急いでラストを知りたいという欲求がそこまで表れないのは、語り手がみな高齢でゆっくりと慎重な佇まいだからか、物語がのっそりゆっくりと進むような語り口だからだろうか。そのあたりのあんばいが井上さんは上手で、絶妙なバランスで書いていると感じる。

上荒野さんの小説は恋愛感たっぷりで、私が今欲しているような読み心地ではないだろうと期待していなかった。直木賞受賞作『切羽へ』もあまり合わなかったような気がする。しかし、この作品はミステリ要素もありなかなか興味深く読めたのである。井上さんの書く文体が変わったのか、はては私が歳を重ねて本への向き合い方が変わったのかもしれない。

はいえ、これはやはり愛の物語である。とても深く真摯な愛情で溢れている。ある程度歳を重ねた人が読んだほうが、この小説の持つ良さがわかると思う。そして、読み終えた時に、この小説のタイトルが心に染み入る。