書に耽る猿たち

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『クラウドガール』金原ひとみ/つかみどころのない関係

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クラウドガール金原ひとみ

朝日文庫  2020.4.24読了

 

格も容姿も異なる姉妹がそれぞれ心の内を語っていく。姉の理有はしっかりして面倒見の良い現実主義、妹の杏は自由奔放で夢見がちで美しい少女。2人は姉妹といえど育った環境も違うから両親への想いも異なる。それでも血のつながった2人には、他の人が決して踏み込めないオーラが漂っていて、結局はお互いがいなくては生きていけない。

族を巡る秘密とか衝撃のラスト、と宣伝文句にあるのだけど、そんな風には感じなかった。ラストはよくつかめない終わり方で、これもクラウド(雲)のようにつかみどころがないというメッセージなのかな?と思った。

原さんの文章はとても読みやすく、今風な表現が多い。濃密な文体を味わうという感じではないのだが、あっと意表を突かれる文章がある。

死が間近にあるところで、人は強く結びつかずにはいられないから(19頁)

確かに、死を前にした時間を一緒に過ごすと、何らかの作用が働いて相手との結びつきが強くなるかもしれない。生死を彷徨うような病を乗り越えた夫婦や、戦地から戻ってきた同志。

自分でできることを人にしてもらうことに意味があんじゃねえの?(180頁)

これ、実は大切なことなんだと思う。何でも自分でテキパキと出来てしまう人って、実は「人にしてもらう」ことが実は苦手な人。全部自分でしなくても、人にしてもらうことも大事。

妹の母親が集めていた、ドイツ製のベスティというぬいぐるみ。どんなのだろう?と調べたらいくつか画像にあったうちの1つがこれ。

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作中に出てくるキツネや羊は見つからなかった。確かに左右の目の大きさが違うのは、子供なら怖いと感じてしまうかもしれない。哀愁を帯びているこの感じ、大人になってから良さがわかる。左右非対称の美しさってあると思う。

原ひとみさんの小説は、数年前に『マザーズ』という小説を読んだのだが、何故か途中まで読んで断念してしまった。基本的に大抵の本は最後まで読破する私なのに、どうしてだったのだろう?そんなにつまらなかったわけでもないのに、気分が乗らなかったのだろうか。まぁ、そんな時もある。しかし意外とそういうことは珍しいから、本のタイトルは覚えている。金原さんの父親は翻訳家の金原瑞人さん。外国小説を読むと訳者になっているのをたまに目にする。

れもしない、金原ひとみさんと綿矢りささんの芥川賞受賞。当時最年少だったこともあるが、それよりも物書きとしては(物書きに失礼ながら)2人とも垢抜けていて目立っていたことが印象深い。その綿矢さんがこの文庫本の解説を書いている。2人は今でも連絡も取りあうような仲の良さらしい。