書に耽る猿たち

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『蝶々殺人事件』横溝正史/探偵小説は作者と読者の知識競技

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『蝶々殺人事件』横溝正史

角川文庫  2020.5.17読了

 

こ最近、こてこての探偵物を欲していた。本当はシャーロック・ホームズシリーズの長編が読みたくて、評判の良い光文社文庫のを探しているがどうやら絶版なのか見つからない。では日本のにするかと思っていたところ、購読中のiCHiさんのブログにこちらの本が紹介されていて、思わず購入。

溝正史氏の本は、私も実は金田一耕助シリーズしか読んだことがなく、名前は知っていたけど由利先生シリーズは初めて。なので読む前からちょっとわくわく。

歌劇団を主催する原さくらが大阪公演を控えて姿を消す。しかし公演日にコントラバス・ケースの中から彼女の死体が見つかる。ホームズ役の由利麟太郎、ワトソン役の三津木俊助の名コンビが謎を解いていくというストーリーだ。探偵小説だからネタバレにならないようにここまで。

の小説が書かれたのは昭和21年とはるか昔。だからトリックについて少し疑問があったり由利先生や警察達の話す言葉の古さは否めなかったのだけれど、今読んでもとても楽しめた!単純に夢中に読める。ザ・探偵物という感じで、読んでいる間もどこに布石があるのか、どこに謎解きのヒントが隠されているのか、そんなことを考えながら抜かりがないように読む。そして最後は探偵による鮮やかな種明かし!これらがまさに探偵小説の醍醐味だ。

誌連載中に、読者らに課題を出していたと解説にある。横溝氏はこう話す。

つまり探偵小説というものは、作者と読者の知識競技なのだ。作者が読者に提供する謎が異常であればあるだけ、そしてしかもその異常な謎の「解き方」が合理的であればあるだけ、それはよい探偵小説ということができるのではなかろうか。(425頁)

時の日本の探偵小説の原点は、海外になぞって横溝氏が生み出しこれがある意味スタンダードになった。しかし時代が変わると、作者の書き方も読者の読み方も変わるわけで、今は探偵小説の謎解きよりも犯人の内面を探るようなミステリーが主流となっている。きっと、またこんな探偵物が流行る日が来るんじゃないかな。私はどちらも好きだ。

題作の他に、50頁ほどでさらっと読める短編が2編入っている。由利先生シリーズは、吉川晃司さん主演で来月からドラマ化されるらしい。最近あまりテレビドラマ観ないからどうするかな〜。

本清張さんもそうだがやはり昭和の文豪、安定感は抜群だ。こうなると他の由利先生シリーズはもちろん、金田一シリーズも読み直してみたくなる。きっかけを作ってくださり、iCHiさん、この場をお借りしてありがとうございます!他の方のブログを拝見していると、知らない本がわんさかあり、興味が湧いて読書の幅も広がる。同じ本でも人によって感じるところは三者三様で、それもまた新鮮だ。