書に耽る猿たち

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『ずっとお城で暮らしてる』シャーリイ・ジャクスン/つきまとう不快感

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『ずっとお城で暮らしてる』シャーリイ・ジャクスン 市田泉/訳

創元推理文庫 2020.5.30読了

 

ャーリイ・ジャクスンさんの本は実はまだ読んだことがなくて、中でもこの小説のことはずっと気になっていた。色々と書評にあがることも多いけど、何よりもこの表紙が気になりますよね。小人のようになった少女が花に囲まれて、なんだかいわくつきな手紙らしきもの。一体どんなストーリーなんだろう?

リキャットと姉のコンスタンス姉妹は立派なお屋敷で暮らす。数年前に、両親をはじめ家族が毒殺されるという怪事件が起きた。コンスタンスが犯人扱いされてしまい、その後屋敷から出ることもなく、身体の不自由なチャールズ伯父さんと3人で生活する。一見楽しそうにのんびり暮らしているが何か秘密がありそうで、そんな折、従兄弟のチャールズが現れてから変化が訪れる。

えずイヤ〜な不快感がつきまとい、なんとも舌触りの悪いようなそんな小説だった。まず、語り手のメリキャットと姉のコンスタンスの不気味なこと。読み始めからもう信用ならない語り手だと予測するのだけど、読み進めるしかなく、とはいえ他の登場人物もワケアリで、誰も信用できない。

リキャットは狂っているようだ。だから、その語りが真実とは限らないし、起きていることも空想の世界なのかもしれない。物語の中でこんなループに読者も溺れてしまう。なんとなく、ヘンリー・ジェイムズ『ねじの回転』の世界観と似ていた。あれも、語り手の家庭教師が信用ならなかった。

女たち(しかも美しい)と豪邸、それだけで霧がかかった恐怖映画を思い起こさせる。こういう作品はアメリカでは流行りそうな感じがする。シャーリイ・ジャクスンさんは『くじ』という短編が有名のようだけど、これもいやな読後感なのかしら。独特の世界観が人によっては癖になりそうだ。