書に耽る猿たち

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『かわいそうだね?』綿矢りさ/言葉の持つ意味も絶えず変化する

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『かわいそうだね?』綿矢りさ

文春文庫 2020.6.13読了

 

っけから引き込まれる。主人公の樹理恵(じゅりえ)が大震災を妄想しシュミレーションをしているのだけど、普段自分が思っていることとよく似ている。あ、綿矢さんってやっぱり一般女性の普通の感覚を持っているなって安心する。

ころで「のっけから」って自分で言っておいてなんだけど、何か不思議な響き。「はじめから」という意味なのだが、これは岐阜県の方言らしい。何故岐阜の言葉が当たり前のように全国で使われているんだろう?誰か著名な人が使ったのかしら、少し気になる言葉の不思議。

理恵と交際中の隆大(りゅうだい)の家に、元恋人のアキエが何故か居候することから始まる。仕事も家もないアキエは、図々しくも樹理恵という彼女がいるのに隆大と暮らし始める。隆大はアキエをかわいそうだと言う。はじめは、あり得ないと号を煮やす樹理恵だが、いつしか「かわいそう」と憐む気持ちになり多少の理解を示していく。というよりも、理解しようと、広い心を持った大人にみせようとする。

かに「かわいそう」という言葉は、人を見下すかのような言葉に聞こえることがある。私も「気の毒」という言葉にすりかえることがある。子供の頃に読んだ『かわいそうなぞう』という本を思い出すなぁ。この「かわいそう」という言葉、人に対して使うときには敬遠されがちだ。実は、アキエではなく自分自身にかわいそうだと思うことに気付く樹理恵。現代使われる「かわいそう」という言葉の意味と絶妙な歪み。

性の心理を巧みに表現し、日本の一般女性に共感される文章を書く綿矢さん。おそらく男性が読んでもあまり反応はないだろう。この小説は、大江健三郎さん自らが選ぶ、講談社主催の大江健三郎賞を受賞している。大江さんに選ばれるなんて、作家にとってこれ以上嬉しいものもない。でもこの賞は8回を持って終了したようだ。

う1つ『亜美ちゃんは美人』という短編も収録されている。際立つ容姿を持つ亜美ちゃんと、その親友サカキちゃんの独特の関係性が見事で、こちらも女性から支持を得られそうな作品。天は二物を与えず、じゃないけれど、人は結局色んなところでバランスを取っているんだなと考えさせられる作品だった。

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