『新聞記者』望月衣塑子
角川新書 2020.7.11読了
昨年の日本アカデミー賞『新聞記者』の原作である。正直、私の中では絢爛豪華な海外のアカデミー賞、ヴェネツィア国際映画祭、カンヌ国際映画祭等の授賞式に比べて、それを真似た日本アカデミー賞授賞式が滑稽に思えて仕方ない。しかし、日本映画自体は嫌いな訳ではない。優れた作品もたくさんある。
小説と同じで、自分が好きな作品を観れば良く、人に合わせる必要は全くないけれど、その年に上映された国内作品の中から客観的に見て一番評価されているのが日本アカデミー賞だ。原作を探したらノンフィクションだというから驚きだ。著者は、映画作品にも端役で登場しているらしい。
衣塑子(いそこ)という名前が素敵だ。大正時代の詩人、萩原朔太郎にちなんでおり「何かを作る人、ものを創造していく人になってほしい」という母親の願いが込められているそうだ。なるほど、「塑」という漢字には「土をこねたりして物の像を作る」という意味がある。
新聞記者という職業についてというよりは、望月さんの今までの人生を振り返る自伝のようである。小さい頃から母親の影響で舞台、ジャーナリストである父親の影響でマスコミ、と近しい存在だったため、この道に入ったのは必然だったかもしれない。海外留学をしたり2年も留年が出来たりと経済的にも恵まれた環境だった。
それでも、名のある企業に入社するため、そしてスクープを掴むため、望月さんが夢を叶えるために行った努力は計り知れず、1人の人間として尊敬に値する。森友・加計問題、伊藤詩織さん問題等で、首相官邸での菅官房長官への質問攻めがたびたびメディアに登場するようになった。
望月さんは「権力側が隠そうとしていることが何かを常に探り、それらをテーマにしてきた。これからも多くの方に政治や社会の問題点を伝えていく」としている。情熱を持って取材をし仕事に誇りを持つ姿は働く女性としても眩しく立派である。
確かに、メディアに携わるマスコミ関係の仕事は、昔から華があり人気のある職業だと思う。しかし、今やネット社会であり、普通の人でも様々な情報を得られ、発信することが可能になっている。今後はマスコミのあり方も変わってくるだろう。
映画は作品賞と同時に、ダブル主演でシム・ウンギョンさんが主演女優賞、松坂桃李さんが主演男優賞を授賞した。映画としてはどのように人の心を打つのか気になる。