書に耽る猿たち

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『不道徳教育講座』三島由紀夫/叡智を感じるエッセイ

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『不道徳教育講座』三島由紀夫

角川文庫 2020.7.22読了

 

やはや、三島さんは何を書いても一級品だ。有名すぎるこのエッセイ、実はまだ未読だったのだが、今年のカドフェスで店頭に並べてあったのを手に取り購入した。これが、なんともウィットに富んでいて大変興味深く読めた。

ウソをつくには、頭脳と神経の浪費を要し、大へんなエネルギーが要るので、めんどくさがりやにはウソはつけません。世の中には、めんどうくさいので正直になっていて、めんどうくさいので、その結果損ばかりしている人も多い。ですから、頭脳鍛錬法として、ウソはなかなか有効である。(大いにウソをつくべし 19頁)

ウソは悪い嘘だけでなく良い嘘もある。それは大人になるにつれてわかってくるんだけど、正直になる理由が「めんどうくさいから」というのが面白い。

章がとてつもなく美しく格調高いのは小説で充分窺い知れるのだが、これはエッセイなだけありリズミカルな物言いで、フェーズごとにくすっとするエピソードが盛り込まれている。昭和33年から『週刊明星』という女性向け大衆週刊誌に69回に渡り掲載され、その後単行本となった。刊行当時まだ34歳という若さだったそうで、それも驚きだ。

のエッセイで感じたことは、三島さんはヒト・モノを普通の人とは違った尺度・視点で見ているということ。 見方を変えれば景色は一変するとはこのこと。こういう人はたまにいるけど、三島さんは絶妙な比喩と切れ味鋭い言葉のチョイスで、道徳観念を覆す。けれど、不道徳も徹すれば道徳になるような気がするなぁ。

は、そろそろ放映終了となる映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』を、この連休中に観に行く予定だ。本当は楯の会を題材にした本でも読んで予習しようと思っていたのだけど、もう時間がない。それでも、少しでも三島哲学を身体に注入してから挑もうと、この作品を読んでみた次第。

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