『草の花』福永武彦 ★
新潮文庫 2020.8.17読了
なんの本だったか忘れてしまったが、この福永武彦さんの『草の花』が出てきて、ずっと気になっていた。恥ずかしながら、福永武彦さんのことは今まで知らずにいたのだけれど、戦後の日本文学に大きな影響を与えた方で、なんと池澤夏樹さんのお父様だというから驚きだ。
東京郊外のあるサナトリウムで療養中の私(作品の語り手)が、さも自殺であるかのように術中死を遂げた友人汐見茂思(しおみしげし)について、約1年間の思い出と彼の残したノートを元に語る。
決意はそれが尚も揺れ、ためらい、少しずつ凝固して遂に決意として定着されてしまうまでは、意識の全域にわたって重くるしく主人公を苦しめているが、一度決意が完了してしまえば、かえって意識の中から身軽に逃げ出してしまうことがある。(128頁)
こんな文章を書ける人はそうそういない。「決意」という言葉が擬人化され、まるで生きているよう。自分が何気なく使っている「決意」という単語を浅はかに扱いすぎだと思えてくる。福永さんは、一つ一つの言葉に対して、真摯に敬意をもって向き合っている。
とてつもなく美しい作品だった。哀しく、悲壮感が漂うのだけれども、人間の生死、愛、信仰、孤独について深く考えさせられる。人間は元来孤独な生きものなのだと感じ入る。まさに日本の名作と讃えられ、後世に残していくべき小説だと思う。読んでいない方がいれば、是非おすすめする。加賀乙彦さんやヘルマン・ヘッセさんの小説を読んでいる感覚に近い。
福永武彦さんの小説を他にももっと読みたくなった。文庫で今も刊行されている作品もあるが、絶版のものも多そうだ。いくつかの長編はもちろん、画家ゴーギャンについて書かれた作品があるようで、個人的にとても気になる。
一方で福永さんは、堀辰雄さんの薫陶を受けて「堀辰雄全集」の編纂にも携わったそうだ。堀辰雄さんといえば『風立ちぬ』だが、ジブリ映画でしか観ていない気がする。今度、小説のほうもしっかり読もう。