書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『百年泥』石井遊佳/インドの生活と文化

f:id:honzaru:20200823133323j:image

百年泥石井遊佳

新潮文庫 2020.8.23読了

 

の作品は、第158回芥川賞受賞作だ。作品以上に当時話題をさらったのは、著者の石井さんと同時受賞の若竹千佐子さんが、かつて根本昌夫先生の小説講座に通っていたこと。もちろん同じタイミングではないけれど。元々大人気の講座だったようだが、さらに入会困難になったらしい。

前若竹さんの『おらおらでひとりいぐも』を読んだけれど、私はこの石井さんの作品のほうが断然好きだ。純文学作品が対象の芥川賞のためエンタメ性やストーリー性があるわけではないが、キチンとした文章、サバサバした独特の文体、そして表現力が素晴らしい。インドと日本を股に掛けた作品だからかスケールも大きい。

ンドの話なのに、どうして商売繁盛の招き猫が表紙なんだろうと(センスのない表紙だな〜と若干感じながら)思ったら、舞台であるチェンナイと大阪市が友好都市提携を結び、チェンナイにあるガネーシャ像と大阪の招き猫をすべて交換したという話が出てくるのだ。

ンド・チェンナイに百年に一度の大洪水が起きた。あるIT会社で日本語教師として働く「私」が泥の中に見たものとはー。インドと日本、現在と過去が交錯する。途中で話が脱線することも多いが、ひとつひとつのエピソードにリアリティとユーモアが共存する。蛭(ひる)に噛みつかれた恐怖の体験から、「蛭子能収」さんの名前を見るとおぞましくなるとは(笑)。

ェンナイという街。私も最初(も、というのは主人公も最初タイと勘違いした)、タイの第2の都市チェンマイかと思った。タイは2回訪れたことがあるが、いずれもバンコク中心だったから次に行くならチェンマイだ。

して、興味はアリアリなのだがインドはまだ行ったことがない。しかしこの小説を読んで、インドを観光したような、いや、インドの生活や文化を垣間見たような気がした。本の良さの一つは、知らない国、知らない街を主人公と一緒に体感出来ることだ。そういえば、タイ・バンコクについては、三島由紀夫さんの『豊穣の海』第2巻『暁の寺』がどんなガイドブックよりも詳しいと思う。